「となりのトトロ」

ルポ トトロにハマる子どもたち1997/10/12

 


 横浜市に住むKさん一家は、つい最近「となりのトトロ」にハマった。きっかけは、「ジブリがいっぱい」シリーズ第1弾の廉価版「トトロ」のビデオの購入だ。このビデオは実に手ごろな値段なので買いやすい。公開直後からずっと出回っていたビデオは1万2800円もする高価なもので、小さい子どものいる主婦にとっては、ちょっと購入を躊躇(ちゅうちょ)するような値段だった。これに対して廉価版は、販売店が定価からさらに値引きして売っているので、実際の購入価格は4000円を切る。これなら、財布のひもが固い主婦も安心だ。

 それはさておき、長男のゆうさく君(仮名、3歳)は見事に「トトロ」にハマった。寝ても覚めても「トトロ」。朝、起きると同時に「トトロを見るぅ」。一回見てもすぐに「もう一度トトロ見る」。母親のみゆきさん(仮名)が別に見たいテレビ番組があっても、「トトロが見たいよ〜、トトロ〜、トトロ〜」。これまでに少なくとも100回は見た。ゆうさく君に付き合って一緒に見るので、みゆきさんはもう、ほとんどすべての台詞を覚えてしまった。サツキとメイの会話、カンタのつぶやき、七国山の病院でのお母さんの言葉…。しかも、バアちゃんの声色までそっくり真似る。「メ〜イちゃあ〜ん」。見事である。実は、みゆきさんも立派な「トトロ・フリーク」になっていたのだ。

 父親のたかゆきさん(仮名)も負けてはいない。こちらは、マックロクロスケ(ススワタリ)が壁のすき間からぞわーっと逃げ出すシーンが得意で、ゆうさく君に指でツンとさせた後にこれをやって喜ばせる。もう一つ、こうもり傘を持ったトトロとサツキ、メイが庭先で、ドンドコ、ドンドコ、ドンドコトットと「発芽踊り」をするシーンも、ゆうさく君は大好きだ。でも、この踊りはちょっと恥ずかしいから、お母さんと一緒でないと披露してくれない。

 この夏に発売された「プチタンファン」(8月号)という育児雑誌に、トトロが大好きな、こうした子どもの様子を描いたマンガが載っているのを、みゆきさんは見つけた。田島みるくの「あたし天使、あなた悪魔/ナノちゃんとテレビの巻」。起きると同時に「トトロ見る」と騒ぐのも、「もう一回見る」と一日に何回でもせがむのも、Kさんの家とまるっきり一緒だった。「うちとまったく同じだね」。聞いてみると、ご近所で小さい子どものいる家はどこも、ほとんどこんな調子でトトロにハマっているのだという。

 子どもの心をシッカリつかんで離さないトトロ。さらに、子どもだけでなく大人の心までガッチリつかんだ。「なんで、トトロってあんなに面白いんだろうねえ」。たかゆきさんは、会社で会う人ごとにそう言って歩いている。ゆうさく君は最近、トトロに加えて「風の谷のナウシカ」(9月に廉価版ビデオが出たばかり)にご執心である。


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