身辺雑記 

by totoropen (OOKA Minami)


2009年12月1日〜12月31日

●「ビラ配布」有罪判決は妥当だ●注意喚起●授業評価アンケート●自発的行為説●人がいっぱい●シンプルで単純明快に●集会取材と忘年会●献本からいくつか紹介●アップアップ●ゆず蜂蜜サワー●●●ほか


12月1日(火曜日) 「ビラ配布」有罪判決は妥当だ

 共産党の「都議会報告」ビラを配るためにマンションに立ち入ったとして、住職が住居侵入罪に問われた「葛飾政党ビラ配布事件」の上告審で、最高裁第二小法廷は「表現の自由の行使のためであっても、管理組合の意思に反して立ち入るのは管理権を侵害する」として上告を棄却する判決を言い渡した。一審の無罪判決を破棄して罰金5万円を言い渡した二審判決が確定する。

 僕は、この最高裁判決は妥当な判断だと思う。表現の自由を行使するためなら何をしてもいいというのは、極めて傲慢で受け入れ難い一方的な主張だ。政党ビラは政治的にも思想的にも公益性が高い印刷物なので、なるべく多くの人に読んでもらいたいというのは分かる。蕎麦屋やピザ屋のチラシとは意味が違うことも理解できる。しかしそれならば、玄関ホールの集合ポストに入れればいいではないか。チラシ広告などの投函や立ち入りを禁じる張り紙があるにもかかわらず、わざわざマンションの廊下にまで立ち入って、ドアポストにビラを投函するのはやり過ぎだ。

 外部の人間がマンション内に出入りすることに対して、不安や恐怖を感じたり不快に思ったりする人は大勢いる。「部外者に勝手に立ち入ってほしくない」という住民の意思に反してまで、自分たちの表現の自由を盾に「ビラを受け取れ」と主張し、マンションの敷地に立ち入る行為を正当化して強要することが、絶対的な権利・基本権であるとは到底思えない。例えば仮に、朝日新聞の社宅に右翼の何者かが立ち入って、ドアポストに「朝日の社員に天誅を」などと書かれたビラを配布されたら、朝日新聞社員は大変な不安と恐怖を感じるだろう。書かれている内容はもちろんだが、家族と生活する住居のすぐ手前まで侵入されたこと自体を、不安に思うのは当たり前の感覚だろう。裁判官や官僚の官舎でも、あるいは教員住宅や企業のサラリーマンの家でも、これは同じことが言える。

 自分の意見や主張を自由に表現して訴える権利は、最大限に守られなければならない。どのようなビラを作成するかも含めて、表現内容は法律に違反しない限り自由だ。そこの部分に異論はない。しかし、だからといってマンションの敷地に立ち入ってほしくないと思う人の権利を侵害していいことにはならない。ドアポストに配布しなくても、駅前で配るなど「表現する手段」「ビラを配るための方法」はほかにいくらでもあるのだから。これを「言論弾圧」とするのは無理がある。

 ただし、ビラを配布した住職の自宅まで強制捜査されて、逮捕から起訴まで勾留されたのは、捜査権の乱用・不当捜査だろう。やり過ぎだと思う。さらにこれが、特定の党派を狙い撃ちにした意図的な逮捕・起訴だとすれば、それもまた許される話ではない。取り締まるのであれば公正公平に対処すべきだ。


12月2日(水曜日) 注意喚起

 午後から授業。週刊誌とワイドショーがテーマ。「最初に結論ありき」で、自分たちの目的に沿った都合のいい情報や材料を集め、意図的で悪意のあるストーリーを作り上げていく取材手法を紹介する(某「週刊S潮」など)。しかし取材という作業は、本来はそういうものではない。最初に仮説を立てたとしても、さまざまな立場や考えの人から話を聞いて調べるうちに、立てた仮説は修正されていく(ことがままある)。そうやって事実を積み重ねて、問題を浮き彫りにする検証作業こそ本来の取材なのだが、まさにそれとは正反対のことをやっているメディアの実態について説明した。

 今年は例年と違って、まるで見当外れの反応を示す学生が数人いるのが気にかかる。講義を聞いていないのかなあ。授業の終わり近くに堂々と教室に入ってくるし。偏ったネット情報の影響を受けている様子も見受けられる。いずれにせよ、それだと学期末試験でまともな答案は書けないと思うけど…。自己責任とはいうものの気になる。それなりに注意喚起してはいるのだが、困ったものだ。

 師走に入ったので、10本の大きなクリスマスツリーが大学構内に登場。青と白のイルミネーションで彩られ、日が落ちるととてもきれいで幻想的な光景が広がる。通りかかった近所の人が、正門から広場を覗き込んでいた。


12月3日(木曜日) 冷たい雨の一日

 午後から市内。横浜駅前のホテルの喫茶店で、写真週刊誌の記者と編集者から、裁判官の実像について取材を受ける。法律と良心のみに従って「独立して判断」するはずの裁判官が、司法官僚機構の中で必ずしも本来やるべき仕事ができていない実態など、分かる範囲で話をした。役に立っただろうか。中央図書館で調べもの。取材や授業で使えそうなものがいくつかあったのでコピー。冷たい雨が降り続いて寒い一日。きのうはかなり暖かかったのになあ。こういう日は本当は外出したくなかったんだけどな。


12月9日(水曜日) 授業評価アンケート

 午後から授業。予定していた講義を少し早く切り上げて、学部一斉の「授業評価アンケート」を実施する。授業改善のための調査ということだが、毎回の授業の終わりに、その日の感想や意見や質問などを学生に書かせているので、わざわざこんなアンケートをやる必要はないと個人的には思うんだけど…。学生の方も惰性になってしまって適当に記入することが多いみたいだし、真面目に授業に参加している学生はともかく、そうでない学生に限って授業に対して厳しい評価をする事例が目立つようだ。終了間際に教室に入って来るような学生から、ボロクソに「評価」されてもなあ。

 たぶん結構な予算をかけている事業なのだろうが、授業の改善にあまり意味があるとは思えない。ほかの先生たちからも同様の愚痴や不満の声を耳にした。文部科学省の指示があって、授業内容をきちんと管理・把握する必要があるのかもしれないけど、こういうアンケートを形式的に繰り返すことで、どれほど適切な実態把握ができるのかはなはだ疑問だ。データを集計してまとめて報告するのは民間のコンサルタント会社で、ほかの学校でも同じように処理されているという。こういうところに文部科学省の役人の天下りはないのだろうかと疑ってしまう。


12月10日(木曜日) 自発的行為説

 夕方から横浜・関内。「日の丸・君が代」の強制の是非を問う裁判の控訴審で、今月2日に東京高裁で開かれた第1回審理の原告団報告会に顔を出す。都合で傍聴取材できなかったので、当日の法廷の様子のリアルな報告があって助かった。さらに原告弁護団が今後の立証方針を詳しく解説。この中で説明された「自発的行為」説は初めて耳にする学説で、とても興味深く聞くことができた。「人間が自発的にやって初めて意味がある行為(愛国心の発露、寄付、謝罪など)を強制することは許されない」との立場から、「価値判断など人格の奥深い部分を否定することは内心を侵害する」とする考え方だという。「起立・斉唱」は国家に敬意を払う行為であり、価値判断を示す行為なので、個人の自由が尊重されなければならないこうした行為を強制するのはおかしい、という論理立てになるわけだ。なるほど。内面的行為と外面的行為を分けて考える論理とは、かなり毛色が違う理屈だと言える。面白い考え方だと思った。

 報告会終了後、県立高校の先生らと駅前の蕎麦屋で飲む。焼酎の蕎麦湯割りが美味しかった。「蕎麦味噌焼き」も味わい深くて、酒の肴によく合う。ご飯があったら何杯でも食べられそうな感じでもある。蕎麦サラダと締めに出てきた蕎麦も絶品。蕎麦尽くしだ。


12月12日(土曜日) 人がいっぱい

 午後から横浜。喫茶店で法学館憲法研究所の取材を受ける。「裁判と裁判官に期待すること」を中心に、裁判員裁判の問題点についても意見を述べた。この「身辺雑記」や雑誌などでこれまで何回か書いているような内容のほか、「法律と良心に従った公正な判断をしていない裁判官」や「開かれていない司法」について、厳しく批判する話をさせてもらう。言いたい放題ですっきりした。取材内容はウェブサイト(「WEB市民の司法」)に来週から掲載されるという。

 それにしても、年末が近いからかボーナスが出たためか、横浜駅周辺は人であふれている。どこの喫茶店も満員で、中には何人もの客が順番待ちをして並んでいる店まであった。おかげであっちこっち右往左往したが、なんとか穴場の店に入ることができた。


12月16日(水曜日) シンプルで単純明快に

 午後から授業。枝葉の部分をばっさり削って、骨子となる柱だけに絞り込んで、ポイントとなるフレーズを何回も繰り返して話をしたら、ほとんどの学生が講義内容をすんなりと理解してくれたみたいだった。先週の授業は「少し難しかった」という感想を書いた学生が何人かいたが、きょうの話はきちんと伝わった様子だ。あれこれエピソードを詰め込まずに、できるだけ構成はシンプルにして、深く掘り下げて分析するようなこともしないで、単純明快に一つのテーマを説明した方がいいようだ。複雑で込み入ったものだとついて来ないし、受け入れられにくいということなのかも。それはそれでいろいろ問題があると思うけど。


12月19日(土曜日) 集会取材と忘年会

 午後から都内。飯田橋で民族差別事件の緊急報告集会を取材。京都の朝鮮人学校に今月4日、市民団体を名乗る男らが集団で押し掛け、拡声器を使って「抗議行動」と称して騒いだ事件をめぐり、経過や問題点などを学校長や弁護士、学者が説明した。会場となった施設前には京都で騒いだ団体の構成員が多数詰めかけ、30人以上の制服や私服の警察官が厳重に警備。ものものしい異様な雰囲気の中で報告集会は開かれた。会場内は50席のところに立ち見も含めて約200人。立すいの余地もないすし詰め状態だった。

 集会を途中で抜けて、小石川の古民家を改築した長屋カフェへ。誘われていた記者仲間の忘年会に遅れて参加。得意分野も年齢もさまざまな男女30人ほどが集まった。ほとんどの人と初対面で半数以上と名刺交換したが、顔と名前がどれだけ一致するかなあ。でも共通の知り合いがいたり、職場や生活エリアが微妙に重なっていたりと、ご縁やつながりのある人も何人かいて、なかなか面白い集まりだった。料理や店の雰囲気も悪くない。解散後に6人で近くの居酒屋へ。こちらは実にリーズナブルな店だった。


12月21日(月曜日) 献本からいくつか紹介

 今年に入ってから最近までの間に、献本していただいた書籍をいくつか紹介させていただく。いつものことながら遅きに失したという感じで、なんで年末の今ごろになって紹介するんだというお叱りもあろうかと思いますが、そういう全く適当でいい加減な人間なもので、どうかご容赦ください(汗)。(価格はすべて税別)

 ◇「ふらふら日記/いまんとこ不治の病」やまざきたけし(二見書房)小脳の委縮によって、ふらつきや歩行障害など運動系の症状があらわれる「脊髄小脳変性症」になった元マンガ雑誌編集者(現在はフリー編集者)が、ブログに綴った日記をまとめて書籍化。病気になる前はフルマラソンやトライアスロンにも出場するスポーツマンだった著者が、ショックや不安を抱えながら送るリハビリ生活や日常の出来事を率直に淡々と描く。文章の合間に挿入される松本充代さんのマンガが楽しい。1500円。

 ◇「子どもをしあわせにする/笑う子育て実例集」増田修治(カンゼン)元公立小学校教師で現在は白梅学園大学子ども学部准教授の著者が、子どもたちに指導してきた「ユーモア詩」の実例をもとに、ストレスのない「笑いのある家庭」を築くための方法を具体的に伝授。「笑いのある家庭には心も体も健康な子どもが育つ」と力説し、「ユーモアの力+学力=人間力」だと訴える。子どもにとって心地よい居場所を、教室でつくってきた実践がベースになっているので、説得力あふれる一冊だ。1300円。

 ◇「訊問の罠/足利事件の真実」菅家利和・佐藤博史(角川oneテーマ21新書)「足利事件」の冤罪被害者と弁護人が、密室の取り調べで嘘の自白に追い込まれた状況や、誤判を犯す裁判の恐るべき実態を明かす。警察官と検察官だけでなく、一審の弁護人や裁判官の責任にも迫るとともに、事件の経緯とDNA再鑑定までの長い道のりを解説。「私が失った十七年半を返してほしい」という菅家さんの叫びは重い。いまだに謝罪しようとしない当時の裁判官ら責任者は、この訴えにどう応えるのだろう。705円。

 ◇「ドキュメント高校中退/いま、貧困がうまれる場所」青砥恭(ちくま新書)親の所得によって進学先が決まり、人生や生き方まで決まってしまう格差社会の実態を、元埼玉県立高校教師の著者が生々しくレポート。中退する高校生のほとんどは所得の低い家庭で育ち、学習意欲を育てるような生活体験がないという。「問題の本質は学校や教育の崩壊ではない。膨大な貧困層の登場だ」と著者は指摘する。豊富なデータと丹念な聞き取り調査から、高校中退と貧困問題の背景が浮かび上がる。740円。

 ◇「商品化された教育/先生も生徒も困っている」佐々木賢(青土社)教育がビジネスの対象となった結果、学校現場がどのように変化し、教師や子どもや家庭はどうなったか。米国と英国の教育事情を伝える新聞記事を紹介しながら、教育崩壊していく様子を検証し日本の状況と比較して報告。教師の多くは勤務条件や職場環境の劣化で疲弊し、教育費は高騰し、貧富の格差と正比例して生徒の成績格差が広がっている。「子どもたちの学力や成績はその国の社会構造の反映だ」と指摘する。1600円。


12月24日(木曜日) アップアップ

 まったく仕事が片付かない。書かなければならない原稿はたまっているし、レポートの採点は終わっていないし、来年度の授業のシラバスもできていない。もちろん、今さら言うまでもなく年賀状は手付かずだ。取材が順調に進んでいるのは助かってるけど。いつも通りアップアップの年末である(汗)。


12月26日(土曜日) ゆず蜂蜜サワー

 夕方から東京・吉祥寺。飲み仲間の弁護士や大学教授らいつものメンバーが集まって忘年会。ふっくらした自家製さつま揚げ、ピリマヨ餃子、こくのある出汁が味わい深い水炊きなど、どの料理も美味しいし店の雰囲気もいい。ゆず蜂蜜サワーは飲みやすくてお気に入りの逸品だ。健康的にもよさそうだし(笑)。いつものことながら、素敵な店を押さえるセンスのよさに感心するなあ。センター入試の試験監督にまつわる悲喜こもごものエピソードや、お薦め映画やスクリーンで見るほどでもない映画の紹介や評論で盛り上がったが、みなさんすごく忙しいはずなのに、意外なほど映画をよく見ていることに驚かされる。その中で話題になったのが、多くの人たちから大絶賛されている「20世紀少年」だ。「どこが面白いのか分からん」「話についていけない」(原作も映画も)という認識が共有できてうれしかった。そんなふうに思っているのは僕だけなのかな…と実はひそかに孤立感を抱いていたのだ。周りがどう評価しようと、自分は自分で気にすることなどないはずなんだけど、根が小心者なので四面楚歌だと結構不安になったりする。自分だけじゃないことが分かると、なんとなく安心するんだよなあ。まあそんなもんだよね。それはそれとして、来春から担当する文章講座のヒントや具体的なアドバイスを、G教授とY弁護士からたくさんいただいてとても参考になった。シラバスと授業にしっかり反映させるつもりだ。感謝です。


12月28日(月曜日) 忘年会

 夕方から東京・新宿。大学時代からの友達5人で忘年会。御用達のいつもの寂れた居酒屋で盛り上がるか…と久しぶりに足を踏み入れたら、内装がすっかりきれいになっていてちょっと驚く。学生時代からまるで変わらないあの雰囲気がいいのに。しかし庶民的でありふれたメニューと安心の低価格さは相変わらずだ。それでこそ◯◯◯◯(お店の名前)である。前回の飲み会の時は僕が原稿の締め切りに追われてドタキャンしてしまったので、今回は2年ぶりの再会。20年ぶりの懐かしい顔も駆け付けてくれた。それにしてもみんな変わってないなあ。ほっとするよ。全員が放送局、新聞社、通信社、出版社に勤務するマスコミ関係者だからかな。仕事納めの新宿駅は人でごった返していて、山手線の車内は終電のような混雑ぶりだった。ちなみに僕はまだまだ仕事納めではない。


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