お薦め映画 FAVORITE MOVIES(7)
1973年、アメリカ。ピーター・ボグダノビッチ監督。ひょんなことから死んだ知人の娘を預かり、叔母さんの家まで送り届けることになってしまった詐欺師の独身男。「疑似親子の関係」を続ける2人の珍道中と心の交流を描いた名作だ。第一級のコメディー作品である。詐欺師のモーゼ(ライアン・オニール)は、バーで知り合った女友達の葬儀に参列したことから、孤児同然になった彼女の一人娘で9歳のアディ(テイタム・オニール)を、叔母さんの家まで送り届ける役目を引き受けさせられてしまう。もちろん、詐欺師のモーゼがそんな役目をただで引き受けるわけはない。アディをだしに使って、交通事故で母親を死なせた加害者の兄から200ドルの金を脅し取り、その金でポンコツ車を新車に買い換えてしまうのだった。
「さあ、金は入ったからガキには用はない」と、アディを汽車に乗せて叔母さんの家に送り付けようとするモーゼだが、どっこいアディは一筋縄ではいかないガキだった。私を追い払うっていうんだったら黙っちゃいないとばかりに、「私のお金よ。話は聞いていたんだから。200ドル返して!」と大声で迫るのだ。アディはどうも、モーゼを実の父親だと思っているふしがある。母親とバーで知り合ったんだからこの男は私のパパなんだと。アディはなぜだかモーゼと離れたくないのだ。怒り爆発のモーゼだが、200ドルは新車購入費で消えてしまった。仕方なく2人一緒の旅が続く。
しかし、アディは実は詐欺商売の天才だった。モーゼの商売は聖書販売。新聞のおくやみ記事を見て未亡人宅を訪問し、「ご主人は奥さんのために聖書を注文していました」と言って頼んでもいない聖書を高く売りつけるのだが、間抜けで甘いところのあるモーゼより数段上手をいく手際のよさを発揮するばかりか、機転を利かしてモーゼのピンチを救ってしまうのだ。最初のうちは、こまっしゃくれて生意気で、いやな娘だなあと感じていたモーゼも、少しずつアディの存在を認め始める。「釣銭詐欺」も2人でやれば完璧。だんだん息もぴったりと合い、なくてはならない名コンビになっていくのだ。
旅の途中、娼婦にべったりのモーゼをアディが策略を練って見事に別れさせたり、酒の密売人をだまして金を巻上げたり、しめしめと思っていると密売人の弟が実は保安官だったので酷い目にあわされたり…などといったことを繰り返すうちに、2人はとうとう本来の目的地である叔母さんの家に到着する。新車はオンボロトラックに替わり、所持金は10ドルだけになっていた。しかし、このころには2人はもうお互いにすっかり離れ難くなっていた。
幸せそうな叔母さんの家の前。「本当にパパじゃないの?」「本当に違う」。実際どうなのかは分からない。しかし、モーゼはアディにきっぱりとそう言い放ち、アディはとぼとぼと叔母さんの家の門をくぐるのだった。
モーゼはオンボロトラックで走り去る。ガタガタ、ゴロゴロ、ドカンドカン…。トラックはものすごい音を立てながら走り出すが、時速20キロも出ない。しかもエンストを繰り返す。モーゼはわき道でたばこを一服する。
一方、アディは歓迎されながら叔母さんの家に入る。叔母さんは優しかった。裕福そうな家庭だ。あこがれのピアノも置いてある。ピアノの鍵盤を一つ叩くアディ。でも、何かが足りない。
たばこを片手に、モーゼは助手席から一枚の写真を見つけて拾い上げた。遊園地の写真館で撮った、ペーパームーンにちょこんと座るアディの写真だ。「モーゼへ。アディより」の署名がある。モーゼの動きが止まる。写真がクローズアップになる。遠い目をするモーゼ。再び写真のクローズアップ。気を取り直してトラックをスタートさせようとエンジンをかけてふとバックミラーを見ると、道の向こうから荷物を手に走って来るアディの姿が小さく映っていた。
見つめ合う2人。感動的な再会シーンだと思って画面にくぎ付けになって見ていると…。「もうごめんだと言ったろう」「まだ200ドル貸しよ」。アディの返事にムッとして帽子を道に叩き付けるモーゼだったが、なぜかオンボロトラックが坂道を勝手に動き出してしまい、2人は慌ててトラックを追いかけ飛び乗るのだった。そして2人はコンビを組んで、またゼロから人生の旅が始まるのだ。これはもちろんハッピーエンドと言っていいのだろう。思わずにやりとさせられるエンディングだ。
アディ役のテイタム・オニールの演技がとにかく抜群にうまい。名子役と誉めたたえられただけのことはある。ただかわいいだけじゃなく、すましてみたり、怒ってみたり、にんまりしたりと喜怒哀楽の表情を見事に表現している。モーゼ役のライアン・オニールのすっとぼけたエセ紳士ぶりもハマり役だ。ちなみに、この2人は実生活では実の父娘である。(モノクロ作品、103分)
2000/6/30 加筆修正