●やっぱり吉田カバン●「チベット」とネット右翼●亀井静香代議士に取材●過不足ない原稿●居丈高な中国批判に違和感●ラーメン値上げ●「裁判」に注目!●私語は許さない●NHK職員の株取引●冤罪事件の無罪を祝う会●●●ほか
5月1日(木曜日) やっぱり吉田カバンショルダーバッグを買い替えた。手ごろな大きさとデザインはもちろん、ポケットの絶妙な配置や使い勝手がよくて、フリーランスになってから8年間ずっと愛用していた革製の吉田カバンだが、さすがに色は褪せて穴も空くなどぼろぼろになっていた。取材ノートや資料、カメラ、手帳などあれこれ詰め込んで、行動を共にしてくれた相棒も、もうそろそろ引退の頃合だと判断した。
中には、年期の入ったそんな外見を見て、「いい感じにくたびれて、映画の小道具に使えそう」などと評してくれる人もいる。確かにそんなシブさをかもし出す風情はある。コロンボ警部のよれよれのコートやオンボロ車みたいな感じか。そういうのも嫌いじゃないんだけどね。
同じ種類のカバンを使うのも芸がないかなと考えて、店頭でほかの製品もいくつか見せてもらった。けど、やっぱりこれ以上に納得できるものは見当たらなくて、結局また吉田カバンの同じシリーズを購入することにした。根強く支持されている定番商品らしく、デザインや仕様は一貫して変えていないという。ただし、色はうす茶系と焦げ茶系の2種類だけだ。できれば、気分転換がはかれるように、色の選択肢を増やしてくれたらありがたい。
5月2日(金曜日) 取材昼過ぎから都内の法律事務所へ。冤罪事件の弁護活動に熱心に取り組む弁護士を取材。これまでの刑事弁護の経験を通じて、裁判官の姿勢やキャラクターをどう受け止めているかを聞く。3時間も話をしてくれた。感謝。なるほどと思う鋭い分析が勉強になった。
5月5日(月曜日) 「チベット」とネット右翼中国の胡錦濤国家主席の来日に、いわゆる「ネット右翼」(ネットウヨ)が大騒ぎしている。胡錦濤主席をチベットの旗で出迎えようだとか、チベット人の人権擁護を訴えて抗議デモをしよう、などとインターネット上で呼びかけているのだ。なにが「人権」なんだか。差別主義者がよく言うよ。日ごろから、中国人や朝鮮人や在日外国人、犯罪被害者や少年事件の容疑者、障害者、被差別部落など弱い立場の人たちに対して、侮蔑と嘲笑の言葉を浴びせかけ、あからさまな差別意識と偏見と憎悪と排除の姿勢をむき出しにした罵詈雑言を平気で連ねているくせに。
「チベット人の人権」をダシにして、中国批判の主張を展開することで中国人排斥を煽りたいだけなのは、ネット右翼の連中のこれまでの言動から明らかだ。チベット問題を解決すべきなのは言うまでもないが、それを利用して偏狭なナショナリズムを鼓舞し民族対立を扇るなど論外だ。ネットユーザーの多くも、さすがにそんなことは分かっているのだろう。ネット右翼の差別と偏見に満ちた口汚い言動にうんざりする空気が、最近はインターネットの掲示板などでも少しずつ感じられるようになってきた。そろそろ時計の振り子の「揺れ戻し」現象が起き始めているのかもしれない。
5月8日(木曜日) 亀井静香代議士に取材午後から都内。亀井静香代議士のインタビューのため、今井恭平さんに同行する。亀井氏はかつて警察官僚だった経験を踏まえて、「上司によるチェック機能が働かず、捜査機関が組織全体で捜査のミスを正当化しようとすることで、無実の人であっても有罪の方向に持っていってしまう」と警察や検察の構造的な問題を断罪。さらに、被告人よりも検察の主張を信じる裁判官、保釈を最優先の仕事だと認識している弁護士など、法曹一体の中で冤罪がつくられていく現状を厳しく批判した。さらに、容疑者を真犯人のように伝えるマスコミの影響の大きさについても指摘した。
取り調べを録画・録音する「可視化」については、「(自白強要や拷問などによる)冤罪を防ぐ効果はある」とプラスの面があることは認めた。しかし、「人間と人間とのぶつかり合いの中で、被疑者に真実をしゃべらせて、良心と懺悔の気持ちを引き出すには壮絶な闘いがある。人間の心を目覚めさせるのが取り調べなんだが、そういう状況をつくるのは簡単なことじゃない。衆人監視の中でどこまで話すだろうか」「自供が証拠の王とされる日本の刑事司法で、自供がなく物証しかない事件で犯罪行為を立証するのは難しい」と述べ、「犯罪をくぐり抜けようとする環境ができてしまうおそれがある」として、すべての過程を可視化することには慎重な姿勢を示した。供述の任意性を担保して証拠能力を高めるため、最後の検面調書の段階など一部を可視化することには賛成だとした。
裁判員制度については、「訓練や経験を重ねた裁判官でも間違った判断をするのに、何の訓練も経験もしていない人がたった3日間で死刑判決を出すなんて無茶だ。普通の市民が一生涯、死刑を言い渡したという十字架を背負って生きていくことになってしまう。せめて、死刑判決は裁判員の全員一致によるものとして(現行法では多数決)、新たに終身刑も創設しなければいけない」と述べ、改正法案を今国会に提出して成立させることを強調した。
このほか亀井代議士は、「被害者の遺族が法廷に出て、死刑にしてください、などと泣き叫んで求刑までするのは行き過ぎだ。そういう今の風潮の中では死刑判決が増えるのではないか。人民裁判みたいになってしまって、冷静な判決が出せるわけがない」とも語った。こわもてのイメージが強いが率直で正直な人だった。内容の詳細は、「冤罪ファイル」第3号(8月1日発売予定)でどうぞ。
5月9日(金曜日) 過不足ない原稿終日、原稿執筆。原稿用紙5枚(2000字)ほどの原稿だ。最近は20枚(8000字)以上の原稿を書くことが多いので、5枚だとたいしたことも書いていないのに、あっという間に与えられた字数をオーバーして困ってしまう。できるかぎり無駄な文章をそぎ落として、描写や表現は簡潔を心がけ、それでいて過不足なく書くべきことは盛り込んで、しかも無味乾燥な内容にならないようにしなければならない。これはこれで思ったよりも結構しんどいな。逆に考えれば、いかにこのところ切磋琢磨を忘れて、冗長で緊張感のない文章を書いていたかということでもある。猛省すべし。
5月11日(日曜日) お手上げ取材先に原稿の確認をしてもらうために、一昨日からずっと連絡しているのに全くつかまらない。事務所に電話を入れ、つながらないケータイには留守電を何回も吹き込んで、メールも送っているのだがまるで応答なし。お手上げだ。あすの朝には編集部に原稿を出稿しなくてはならない。これは見切り発車するしかないかな。
めちゃくちゃ寒いなあ。寒気の影響で3月下旬の気温だとか。エアコンの運転を、迷わず暖房に切り替えちゃったよ。
5月12日(月曜日) ほっと安心とりあえず締め切りギリギリなので、朝のうちに原稿はそのまま編集部に送信。午後になって、ようやく取材先から連絡があった。1カ所だけ僕の勘違いによる事実関係の誤りを指摘されたので、ゲラの段階で反映させてもらうことにする。なんとか滑り込みセーフで間に合った。ほっとした。
5月14日(水曜日) 居丈高な中国批判に違和感中国・四川省の大地震に関して、「外国からの被災者救援隊を早く受け入れろ」とか「聖火リレーなどやってる場合じゃないから中止しろ」などと、ワイドショーだけでなくニュース番組でも、キャスターらが居丈高に中国政府を非難・批判しているが、なんとも傲慢な態度に思えて仕方がない。どうしてそこまでふんぞり返った姿勢で、あれこれ偉そうにコメントできるのか不思議だ。
地形的に厳しい環境らしいので、状況を把握するだけでも大変なのは想像に難くない。それに道路はあちこちで寸断され、現場にたどり着くのは地元の軍隊でさえ容易ではない中で、言葉の壁もある外国からの救援隊を受け入れるのには、それなりに準備や態勢が必要だろう。先進技術と経験のある日本などの救援隊が、もちろん少しでも早く力を発揮できればいいと思うが、先方にもさまざまな事情はあるだろう。これは中国に限ったことではなく、日本でも過去の大震災では同じような状況があった。サイクロンによる被災者をろくに救助しようともしないミャンマー(ビルマ)の軍事独裁政権と、中国政府の大地震への対応や力量とは明らかに違う。上からの目線で居丈高に中国政府を非難するのは、善意の「救援」の気持ちから手を差し伸べようとする者の取るべき態度ではない。
北京五輪の聖火リレーを中国国内で続けるかどうかは、中国の国民が決めることで、よその国の人間がとやかくいう話ではないのではないか。何万人もの死傷者や行方不明者が出ている中で、聖火リレーなどやってる場合じゃないという意見は当然あるだろうし、規模は縮小しても、聖火リレーの走者が国内を走ることで励まされて元気が出るという考えもあるだろう。どちらが正しいのかどうかを即断するのは難しいが、それを判断するのはあくまでも中国の国民だ。よその国の国内事情について、外国人が偉そうに「説教」したり「罵倒」したりするのはお門違いである。同じことを日本人がよその国の人間から偉そうに言われたら、「余計なお世話だ」と感じて反発するだろう。ちなみにこれについても日本では、東京五輪の際に似たような経験をしているそうだ。
天災や事故などで大変な状況にある隣人に対して、できることがあれば最大限のことをしてあげたい、そんな気持ちからお互いの信頼や理解が深まる。国家と国家、国民と国民などという大袈裟な話ではない。これは人間と人間の関係の基本だ。
5月16日(金曜日) ラーメン値上げ近所のラーメン屋にしばらくぶりに入ったら、いつも食べているラーメンの値段が630円から700円に値上げされていた。数年前にも30円の値上げをしてるんだよなあ。小麦の高騰でインスタントのカップ麺やパンなどが一斉に値上げされているから、当然の成り行きではあるのだが、一気に70円も上げなくてもいいじゃんと、ついつい愚痴を言いたくもなる。でもまあ小麦だけでなく、原油高の影響で光熱費やそのほかの原材料も軒並みアップしてるわけで、今回の大幅値上げも仕方ないのかね。
2カ月ぶりに髪の毛をカット。前回に引き続いて、今回も短かめに切ってもらった。かなりすっきり。
5月20日(火曜日) 「裁判」に注目!きのう19日発売の週刊ダイヤモンドは「裁判がオカシイ!」と題して、日本の司法の現状と問題点を総力特集している。経済誌がこういう特集を組むのは面白いし意欲的な試みではないかと思う。僕もこの特集の中で、冤罪事件で無罪判決をいくつも得ている弁護士に取材し、刑事裁判の実態について記事を書いた。新聞広告では「無罪請負弁護士が見た冤罪が生まれる構造」、掲載されている記事の見出しでは「捜査過程に批判の目を/冤罪弁護士が見た裁判の実態」。興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。
◇◇ 今月1日に発売された季刊「冤罪File(えんざいファイル)」第2号では、創刊号に引き続いて「裁判官の品格」シリーズの2回目を執筆。飲酒運転3児死亡事故の判決で「危険運転致死傷罪」を適用しなかった福岡地裁の川口宰護裁判長(現在は大分地家裁所長)を取り上げた。最高刑が懲役20年の危険運転致死傷罪と同5年の業務上過失致死傷罪とでは、刑の重さの格差が大きい。だからこそ危険運転致死傷罪の適用には、厳密な立証と慎重さが求められる。川口判決にはマスコミや世論の批判が集中したが、川口裁判長は果たして本当に袋叩きのようにして非難される裁判官なのだろうか。その人物像や背景を検証した。
「冤罪File」の第2号では、もう一つ「冤罪事件の経済学」という記事も執筆した。冤罪事件の裁判で無罪を勝ち取るまでには、経済的にも精神的にも大変な困難が伴う。ひとたび逮捕・起訴されると、勤務先から有無を言わさず解雇されてしまうことが多い。弁護士が手弁当で、献身的弁護をして無罪を争うこともあると言われているが、実際の裁判費用がどれくらいかかるかは不透明だ。具体的な事例をもとに、裁判費用の面から冤罪事件を考えた。
◇◇ ちなみに、雑誌「冤罪File」はかなりの部数が出回っていて、売れ行きも好調だという。大手書店の店頭に平積みされているだけでなく、街の小さな書店にも並んでいる。編集部には、全国の拘置所や刑務所から冤罪の実態などを訴える手紙が殺到しているそうだ。それだけ冤罪事件が多いということでもあるのだろう。冤罪事件は決して氷山の一角ではない。1年後には裁判員制度が導入されることもあって、「裁判」というものに対してこれまで以上に市民の関心は集まっている。裁判関係の本が次々に発行されたり(玉石混交だが)、週刊ダイヤモンドが裁判特集を組んだりするのも、市民のニーズがあるからだ。そういう意味では「冤罪File」の創刊はタイムリーだし、期待も責任も大きいのではないかと思われる。
5月28日(水曜日) 私語は許さない夕方から大学。非常勤講師懇談会に顔を出す。授業中の学生の私語が話題になった。新年度になってからカウンセリング担当の先生のところへ、「私語がうるさくて授業に集中できない」と相談(苦情?)にやって来る学生が何人もいるという。真剣に講義に参加したいと考えている学生は決して少なくないということだ。うれしい話じゃないか。それなのに真面目な学生を悩ませるなんて、私語を放置しておくわけにはいかないだろう。そもそも他者の学習する権利を侵害するような行為は断じて許されない。毅然とした態度で私語を注意しない教員の側にも問題があるんだよね。そういう先生がいると、学生たちは私語をするのが当たり前になって、ほかの授業にも「とばっちり」がくることになる。きょうの懇談会で出た話はぜひ、出席していない先生にもしっかり伝えてほしいな。
5月29日(木曜日) NHK職員の株取引NHKの報道局記者3人が放送直前の原稿を盗み見してインサイダー取引をしていた問題で、NHKの第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)が「勤務時間中に株取引をしていた職員が81人いた」などとする調査結果を公表した。そもそも報道関係者が株の売買にかかわること自体が職業倫理としておかしいと思うが(1月18日付「身辺雑記」参照)、勤務時間中に株取引をしていた職員がそんなにいるとは、あきれ果ててものが言えない。よっぽど暇な職場なんですね。あるいはものすごく優秀な人材が揃っているとか。
株取引をしていた職員が本当に81人だけなのかも疑わしいが、それよりもっと驚かされたのは、プライバシーなどを理由に第三者委員会への調査強力を拒否した職員が、1000人近くもいたという事実である。信じられない。いったい何を考えているんだろう。報道機関として絶対にあってはならない行為をしたことで、NHKに対する視聴者の信頼はボロボロだというのに、調査協力を拒否するとはどういうことなんだ。信頼回復の努力をする気などないのだろうか。危機意識のなさと鈍感さは、ちょっと理解できない。
5月30日(金曜日) 冤罪事件の無罪を祝う会夕方から横浜・桜木町。冤罪事件で無罪が確定した男性の報告集会と祝う会に取材を兼ねて参加した。でっちあげられた事件による長期拘留は、元被告人の男性を大きく傷つけたようだ。いまだに心の平穏が取り戻せない心境を、本人やほかの冤罪事件の被害者が言葉少なに語った。弁護士や支援者らの百の言葉よりも、はるかに重く心に伝わってくる。窓の外にはライトアップされた観覧車やホテルなど、横浜みなとみらいの美しい夜景が広がる。しかし不当に逮捕・起訴されて貴重な時間を奪われた本人と家族には、そんな景色を楽しむ余裕はまだないだろう。