◆毎日更新している「身辺雑記」から、「盗聴法」について書いた文章をまとめて掲載します。(第1部・最終更新/2000年8月12日)=このページが「第1部」です
◆関連記事は、別ページ(第2部)に掲載しました。一連の動きに関係する内容です。(第2部・最終更新/2002年9月11日)
◆第2部からメディア規制(言論統制法)関連記事を分離して、独立したページを設けました。(2002年5月24日)
1999年5月24日(月曜日) ガイドラインと盗聴法新しい日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法が、自自公の3党の賛成多数により成立した。「周辺事態」が起きた際に、日本が米軍を支援する枠組みが決められたわけだ。要するに日本の周辺で戦闘状態が起きたら、日本も戦争に巻き込まれる可能性が濃厚になったのであって、米軍の作戦遂行に日本国民も自治体も協力しなさいという法案である。言葉の定義や概念が極めてあいまいで、解釈次第でどうにでもなるところが、まずもって怖い。そして、「非常事態」とさえ言えばどんな超法規的行為でもまかり通ってしまいそうなところが、さらに不気味さを倍加している。
でもって、この法律と同じように怖いのが、同じく今国会で成立する見通しの「組織犯罪対策法案=通信傍受(盗聴)法案」だ。一体だれが、何を根拠に、だれの何をどこまで、どうやって…、というのがこれまた極めてあいまいなまま、権力によって国民のプライバシーが侵害されようとしているのである。まるで身に覚えのない事件に「関係あるかもしれない」というだけで、自分の大切なプライバシーがいつの間にか、すっかり丸裸にされてしまう可能性があるのである。電話も、インターネットによるメールの内容も、すべてが筒抜けになってしまうのだ。そんな危険な法律が今まさに、ガイドライン関連法と同じ構図で成立しようとしている。これは他人事では決してない。断固反対の立場を明確に表明しておきたい。
1999年5月28日(金曜日) 盗聴法案を強行採決「組織犯罪対策法案=通信傍受(盗聴)法案」が衆院法務委員会で、自民・自由・公明の3党によって強行採決された。これは実に危険な憲法違反の法律である。はっきり言って、日本は今後とんでもない管理・監視社会になる恐れがあるのだ。このことを僕たちはしっかりと認識しなければならない。
「一般市民はこの法律とは無関係だから、決して盗聴されることはない」などと政府・自民党などは説明しているが、それはとんでもない大うそだ。例えば、あなたの友達の友達が覚せい剤に手を出していたとする。「犯罪に関係している恐れがある」との理由で、警察があなたの友達の電話を盗聴するうちに、あなたと友達との会話まで聞かれる可能性は十分にあるし、場合によっては「友達も共犯の疑いがあるので、友達が外からあなたにかけてくる会話を聞く必要がある」と警察が言い出せば、あなた自身の電話が盗聴されてしまうことだってあり得るのだ。盗聴の範囲や対象はどこまでも際限なく広がる。本人の知らないところで会話や通信が筒抜けになる危険性は極めて高い。
野党に日程相談もせず、ろくすっぽ審議もせず、公聴会も開かない。なぜ、こんなに急に慌てて法案を成立させようとしているのだろうか。それはこの法律の実態や本質が、広く国民に知られて大騒ぎになると困るからだ。この期に及んでもまだ、この法律の危険性や本質はよく理解されてはいない。だから今のうちに、どさくさに紛れて成立させてしまおうというのである。僕だって自分が権力者の側だったら、同じようにするからね。
正直に言って、盗聴法案がこんなにあっさり成立することになるとは思ってもみなかった。「まさか、こんなとんでもない法律が国会を通過するわけないじゃん」と思っていたのだ。きっと、ほかのマスコミ関係者も同じように驚いている人間が多いだろう。このような事態になったのは、公明党が自民・自由両党と手を組んだことによるのは間違いない。けれども、この法律の危険性をきちんと報道してこなかったマスコミの責任が大きいのだ。僕も含めて。
思えば2年前、東京の出版社・現代人文社がいち早く出した「盗聴法がやってくる」というブックレットを、僕は編集長から贈呈されていたのだった。さらに昨年は、第2弾である「盗聴法がやってきた」という続編もいただいていながら、「まさかね…」で終わってしまい、真剣にこの法律の危険性を訴えることをしなかったのである。もちろん、たかだか僕一人が記事を書いたからといって、事態がどうなるとも思えないが、それでも少なくとも、法案の問題点を考えてもらう材料を1本でも2本でも送り出すべきだったのだ。ジャーナリストであるならば。深く後悔・反省している。
◆そんなわけで遅ればせながら、「サードインパクト」のフロントページに「盗聴法に反対する」というメッセージを掲載した。
◆それから、これは異例の呼びかけです。この「身辺雑記」をご覧になっている皆さんにお願い。公明党の支持母体である創価学会には、盗聴法に反対の人が相当の割合でいるそうなので、皆さんの知り合いに創価学会員がいたら、ぜひ「盗聴法賛成に回った公明党はおかしい」との意見を伝えましょう。まだ間に合います。
1999年5月31日(月曜日) 公明党議員の「暴走」会社を辞める報告をまだしていなかったので、知人の聖教新聞記者に電話する。で、当然のことながら話は、成立寸前の盗聴法案のことになった。聖教新聞は創価学会の機関紙で、そこの記者である知人はもちろん創価学会員である。「いや、公明党の国会議員には本当に困っているんですよ、もう支持しないぞって話していますよ」。かなり怒っている様子だ。公明党との連絡会議の席で、支持母体である創価学会から「盗聴法案の問題点」について申し入れしているのに、公明党の国会議員は全然言うことを聞かないのだという。「支持者の存在をすっかり忘れている。だれのおかげで議員になったと思っているんですかね」。怒りはごもっともだと思う。
公明党の指導者は、自分たちのやっていることが政党として本末転倒であることに、たぶん気付いていないのだろう。「自自公」の枠組みの中で、キャスチングボートを握るという党利党略が最優先され、政党本来の「政策や理念」をすっかり忘れてしまっているのだ。選んでくれた支持者の声を代弁することこそが議員の仕事であるのに、とんでもない勘違いをして暴走しているようである。公明党と創価学会との間には大きな矛盾が生じているが、不幸にもこれが盗聴法を成立させる大きな要因になっているのだった。合掌。創価学会員の皆さん、何とか頑張ってくださいよ…。
1999年6月1日(火曜日) 盗聴法案が衆院通過「組織犯罪対策法案=通信傍受(盗聴)法案」が衆院本会議で、自民・自由・公明などの3党による賛成多数で可決された。いよいよ王手がかかった。危険な法律成立が着々と進んでいる。公明党の国会議員は、自分たちの修正案が受け入れられたから「歯止めがかかった」などと言っているが、どこにどう「歯止めがかかった」というのだろうか。そもそも、通信の秘密や基本的人権が侵害されるというのに、歯止めうんぬんの問題ではなかろう。納得いくだけの根拠を示してほしい。そんな中、法務省は報道機関に対して、「盗聴」という言葉を使わず「傍受」という言葉を使うように要請してきたという。国民に「誤解と偏見を与える」のだそうだ。何を言っているのだろうか。噴飯ものである。本当のことを的確に表現しているから困るのだろう。ここまで分かりやすく、物事の本質を言い当てた言葉はほかにはないのだから、言い替える必要などない。そんな法務省に言われたことを黙って聞くようでは、報道機関として自殺行為だよ。分かっているのか、NHK。と思っていたら、朝日新聞も夕刊で「盗聴」の言葉を抜かしている…(絶句)。
民主党と社民党の議員とともに、自民党員でありながら、田中真紀子議員は法案に反対するために退席したそうだ。やるなあ。栗本慎一郎議員も「こんなに重要な法案がこれほど簡単に決められていくのはおかしい」とやはり退席したという。公明党の議員さんたちは深く反省して、この二人を見習うように(苦笑)。
「憲法違反の盗聴法に反対します!」というページを昨夜、新しく立ち上げました。「サードインパクト」フロントページの「メッセージ」からリンクしています。これまでは「身辺雑記」にリンクしていましたが、独立させました。
1999年6月2日(水曜日)「セカンドインパクト」フロントページにも、「憲法違反の盗聴法に反対します!」の「メッセージ」を掲載しました。
1999年6月12日(土曜日)創価学会員の弁護士と盗聴法 先週、知人の創価学会員の弁護士Yさんからメールをいただいた。この人は、少年事件や人権問題などに積極的に取り組んでいる気鋭の弁護士である。先週発売の週刊「プレイボーイ」に掲載された「盗聴法をブッ潰せ!」という特集記事では、寺西和史判事補(1998年12月3日付「身辺雑記」参照)との対談という形で、盗聴法の問題点を現職法曹の立場から指摘している。なかなかよく書けている記事なので、図書館で読んでみてほしいくらいだ。でもって、やはり創価学会員の中には今回の公明党の一連の対応に疑問を抱いている人がかなり多いそうである。いただいたメールから、弁護士Yさんも同党の態度を苦々しく感じている様子がひしひしと伝わってきた。「厳しい情勢ですが、知り合いの参院議員に声を掛けて少しでも慎重審議をするように働きかけたい」。そんな内容のことが書かれていたが、ここはぜひとも頑張って公明党の議員たちを改心させてほしいと思う。国会で公明党が賛成したら何でも通ってしまうのだから。お願いします。
1999年6月14日(月曜日)マスコミは反応が鈍い 法律家のたまごの女性と話していて、盗聴法が話題になった。「マスコミは反応が鈍過ぎるよ」と彼女は言う。法律を勉強している人たちや専門家の間では、もうずっと前から「盗聴法の成立は必然。国会通過は時間の問題だ」との共通認識があったというのだ。どういうことなのかな…。つまりこれまでも警察による盗聴は合法的に行われていて、捜査に盗聴が必要があるとする捜査機関からの令状請求(検証許可状請求)に、裁判所はホイホイと応じているというのである。だからそうした現状を考えると、政府が法律整備を進めようとするのは必然なのだという。なるほど。何も考えずに令状を出している「思考停止の裁判官」は、確かに多そうだもんなあ。そもそも、そういう事実すらマスコミはきちんと把握していないし、把握しようとしてこなかったわけだ。僕も含めてマスコミの責任は大きい。「反応が鈍過ぎるよ」との指摘には全く返す言葉もない。
そして大事なのは、この法律がいつでも普通の一般市民を対象にできるということ、それを市民が自覚していないことにある、そんな話になった。審議中の盗聴法案について賛成派は「薬物や銃器に関する犯罪に対象が限定されているから問題ない」と言うが、とんでもない話である。「薬物犯罪に関係している疑いがある」なんていくらでもこじつけられるではないか。しかも、簡単にでっち上げだってできる。本人の知らない間に警察官がカバンの中に覚せい剤を入れて、薬物所持容疑で逮捕されたケースも現にあるのだ。そういうこともマスコミはきちんと伝えていない。記者として反省することは山ほどある。
1999年8月9日(月曜日) 参院法務委員会で強行採決(前略)さらにきょうは、通信傍受(盗聴)法案が参院法務委員会で強行採決された。この法案も間もなく可決・成立するだろう。もう今さら何を言っても書いても、無駄なことで意味がないのだろうか。 →関連記事(第2部)参照。
1999年8月10日(火曜日) 特定メンバーのための政党きのうの通信傍受(盗聴)法案の参院法務委での強行採決は、映像で何回繰り返して見ても異常だし異様な光景だ。小学生の学級会にも劣る審議には驚き呆れ返るばかりである。議長をやっていた参院法務委員長は公明党の議員で、しかも笑えることに弁護士出身なのだそうだ。こんなブラックユーモアと言うか冗談は滅多にないですね。そう言えば、昨年までは盗聴法の反対集会に顔を出していた公明党代表代行のおばちゃんも弁護士出身だった。よくよく考えてみれば、そもそも公明党は組織防衛のためなら何だってするのだろう。結党精神や政策や理念は二の次、三の次なのだ。組織(もちろん支持母体の宗教団体やその親分は当然含む)を守ることがすべてに優先するわけである。今国会での公明党の動きを見ていて、今さらながらそのことがはっきりした。まあ、自分たちが一番大事なのはよく分かるから頑張ってください。そして、特定の宗教団体のメンバーはせいぜいこの政党をしっかり応援してあげてほしい。だがしかし、メンバーでないすべての市民はこの政党に一切協力すべきではないだろう。だって、特定宗教団体のメンバーのために存在している政党なのだから、メンバー以外の市民の利益や理念は何ら代弁してくれることはないわけだ。そんな政党を、信者以外の有権者が相手にする必要はなかろう。論理的にはそういうことになるはずでしょ?
1999年8月12日(木曜日) 盗聴法案と国民総背番号制が成立通信傍受(盗聴)法案がとうとう参院本会議で可決・成立した。続いて、住民基本台帳法の改正案(国民総背番号制)も同様に参院本会議で可決・成立した。しかし、これだけ内容への疑問や制度不備が指摘されている法律があっという間に、しかも強行採決を伴って、さらには委員会での採決省略までして次々に成立していくというのは、まともな事態ではない。異常さを通り越して不気味であるとしか言いようがないと思いませんか。「なぜ『盗聴』などと大げさに言うのか」という嫌がらせメールを送り付けてきたあなたにしても、両法案に諸手を挙げて賛成している人たちにしても、明らかに議論や審議が不足しているということくらいは分かるでしょう。例え意見が真っ向から対立する問題であっても、双方が納得するまで十二分に議論を重ねて、少なくとも疑問や疑念を抱かせないだけの準備をしてから多数決を採るというのが、相手に物事を理解させる基本的な姿勢だと思う。日本の国を本当に愛しているのならば、圧倒的な力で一方的に従わせるのではなくて、せめて同胞に対して時間をかけて理解を求めていくのが筋だろうと考えるのだが。日本の民主主義はまだ終わってはいないかもしれないけれども、しかし確実に逆方向に向かって歩き出している。
2000年6月25日(日曜日) 絶対安定多数と盗聴法衆院総選挙の投開票日。投票締め切り時間ぎりぎりに近くの小学校へ投票に行く。駆け込み投票は僕だけではなく、年齢層に関係なく直前にやって来る人たちが結構いた。投票率は前回を上回ったものの、全国的に見るとそれほど高くなかったようだ。で、結果は与党が絶対安定多数を確保かあ…。あれだけ馬鹿にされてコケにされたというのに、なんておめでたい有権者なんだろう…。つーことは森首相がこのまま続投して、沖縄で開かれるサミットで各国首脳を仕切るのか…(ため息)。でもっていよいよ予定通り、盗聴法(通信傍受法)も今夏に施行されてしまうというわけである。そうなのだ。法律自体は1年前に可決成立したけれども、施行されるのは実はこれからなのである。この間のインターネット講座でも、講義の最後にそんな話をしたんだけどなあ。しかし今回のこうした選挙結果で、盗聴法廃案なんてことはぐっと遠のいてしまった。あのでたらめ続きの警察に、個人の会話が合法的に盗聴されてしまう社会がついに到来するのだ。ふう…。絶句…。そう言えば今回の選挙で、盗聴法を推進するために国会で懸命に旗を振っていたタレント大臣が辛くも当選したんだよな。選挙報道番組を見ながら返す返すも残念に思ったのが、この人物の当選確実の瞬間だった。
2000年8月12日(土曜日) いよいよ盗聴法施行へいよいよ3日後、警察が大手を振って合法的に「盗聴」できるようになる。通信傍受(盗聴)法が施行されるのだ。いつの間にか知らない間に、普通の市民が盗聴されているかもしれない。それは僕かもしれないし、あなたかも知れない。盗聴するための理由はどうにでもなる。理由などというものは「存在」しているものとは限らない。理由は後から「つくる」ものでもあるのだ。それはつまり正当化するために取って付けた「口実」に過ぎないのだが、しかしそんなことは、盗聴しようとする側にしてみればどうでもよいことだろう。重要な証拠を隠し、あるいは逆にでっち上げて捏造するのが日常茶飯事なのは、盗聴法が成立した後で次々と明るみになった一連の警察不祥事を見れば明らかだ。多くの冤罪事件被害者の声でもこれは証明されている。そういう機関が盗聴法という武器を手にしてしまった。「法に則って厳正かつ適正な手続きで盗聴するから信用してちょ」などと言われても、そう簡単に「はいそうですね」と受け入れられるだろうか。現行法で十分に捜査できるのにもかかわらず、あえて盗聴のための法整備をしたのだから、それなりに重大な意図があるのだろう。もちろん施行後すぐには不祥事を起こさないだろうが、忘れたころにとんでもないことをしでかさないとも限らない。今後の展開をしっかり注視していきたいと思う。憲法違反の疑いのあるこの法律の即時廃止を強く要望する。
関連記事は、別ページ(第2部)に掲載しました。