「彼氏彼女の事情」
第24話〜第26話
■■subtitle■■サブタイトル(四字熟語)については「アイキャッチの事情」をどうぞ!
■■comments■■【第24話】「今までと違うお話 」(1999年3月12日放送)
ああ、こう来ましたか…という第24話の構成&展開でした。今回のお話は全部で4つもあるんですね。Aパートは一応は普通のお話で、Bパートは要するに「これまでのあらすじ」が3本立て(!)なのです。しかしまあ、何というか…。でもね、Aパートだけなら、これはこれで第1級の作品として成立していると言えなくもない。Aパート考察の最後でも書きましたが、これで最終回だとしてもまったく違和感はない作りになってはいました。それではそんなわけで、いつものように「ストーリーを紹介しながら作品を解説・考察する」という形を取りながら、放送を振り返りたいと思います。
オープニングは普通通りに流される。監督は「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」の連名表記。
Aパート:冒頭に「私は人の目にどう映るのだろうか/二学期編」というテロップが映し出され、続いて同学年女子や同学年男子、元体育祭実行委員関係者、学年主任、友人、親近者らの、宮沢雪野に対する評価が語られる。証言者の目の部分を黒塗りしてあるが、だれが語っているかはモロバレなのが笑える。「自分さえよければっていうか、でも最初のころは面倒見よかったよね」(同級生)、「あれで案外歯応えがある。噛めば噛むほど味が出るスルメのような生徒」(川島先生)、「有馬取られた〜、有馬取られた〜」(つばさ)。そんな雪野は、有馬に対して「栄華を極めた見栄っ張り人生が過去のものになろうとしている〜」と愚痴をこぼす。そこへ浅葉が登場して「これが彼女の本質なんだよ。君たちの愛なんて、有馬と僕の友情には程遠いのさ」。ところが有馬の肩に手を回していた浅葉だったが、いつの間にか「馬のワラ人形」にすり替えられている。驚く浅葉。そりゃあ、驚くって。有馬を両手に抱いた雪野は「もはや、あんたなんかに私たちの間に入り込むすき間なんてないのよ」。おいおい、雪野は忍者だったのかあ…。それを聞いて「お前らって…そんな関係だったわけ?」と動揺&大騒ぎする浅葉。ほとんどドタバタのギャグが展開される。すねて見せる浅葉をなだめる有馬。だが、そこで急にシリアスな表情になる有馬であった。「何やってるんだ僕…」
一方、雪野。「自分を思った通りに変えるってのは結構難しいものなのね。もしも、有馬と彼氏彼女の関係にならなかったら、私はどうなっていたんだろう。もしも、有馬が私の前に現れなかったとしたら…?」。シミュレーション・モードに入る雪野はそこに、永遠の見栄王の姿を垣間見るのだった。屋上の屋外塔の上に寝転がって雪野は悩み、考える。「結局、私が変わったのは見栄を張るのを止めたことだけだ。欲が深いところはちっとも変化していない。有馬はしょっちゅう、こんなこと考えているのかなあ」
雪野を探し回る有馬。「ゆきのんなら、自販機コーナーで十波とジュース飲んでいたよ。十波君に聞いてみたら?」と聞かされ、それまでの快活だった表情が一変する。階段で十波と擦れ違ったが、まるで一切無視する有馬。そんな有馬は雪野を探していて、教室にもう一人の自分を見つける。もう一人の有馬はぼそぼそとつぶやく。「今まで自分だと信じてきたものは、僕が作り上げただけの偽物だったんじゃないのか。僕の中にはもう一人の本物がいるんじゃないのか」。そして叫ぶ。「最低の人間だったらどうする!」
再び屋上の雪野。「何が有馬をそこまで苦しめるのか、その本当のところは結局、私は何も知っちゃいない」。そこに、「有馬の暗い心の扉」とでもいうようなものが空中に出現する。その中には、頭を抱えてうずくまって泣いている小さい時の有馬がいる。「嫌だ、見たくない」と叫ぶ有馬の声。雪野の独白。<なぜ? 泣いているよ、そのままでいいの? 怖かったら私がついていてあげるから、これは有馬が自分で解決することだよ、私にできるのは支えることぐらい…>。雪野の手を取って、扉の向こうの赤と黒のどろどろした世界に一歩足を踏み入れる有馬。「さ、おいで、さ、何やってんだよ! そんなんじゃ!」と苛立つ有馬に、雪野は言う。「有馬、違うよ、有馬のして欲しかったのはそうじゃない」。有馬の独白。<だれからも嫌われないようにしてきた。優等生と呼ばれていた僕も、自分が傷つくのを恐れて他人と深くかかわるのを拒んだ結果だ…>。そのまま泥沼の思考に入っていこうとする有馬を、雪野の一言が転換させる。「自分で自分のことをどうこう言うのって、あてにならないよ。今の自分がどうしてこうなったかなんて、そう簡単に言葉にできることじゃない。自分が思っている以上にいろんなものから影響を受けて、有馬は有馬になったんだよ」。駄々をこねている有馬を簡単にあやしてみせる雪野。「僕はまだまだ子どもだ、彼女がいないと僕は…。僕はまだ変わらなくてはならない」。そう感じた有馬は、雪野の手を離して小さな有馬のところへ飛んで行く。
雪野は一人思う。「私たちはお互いを変えるために出会ったのだろうか。だとしたら、変わったことで二人でいる必然性をなくしてしまうのかもしれない。それもいいかとも思う。新しい出会いや別れを繰り返しながら、私たちはこれからも変わっていくのだろう」。……。そこに、天使姿の宮沢シスターズが現れて、雪野に声をかける。「あれえ〜、本当にそれでいいの? ゆきねえちゃん。ちょっとうまくまとめすぎなんじゃない?」。そうだ、一人で納得している場合ではない。「私たちはまだ具体的なことは何も分かっていないんだ」と草原を駆け出して行く雪野。…。屋上で眠っている雪野を有馬が見つける。雪野の独白。<いつかそういうことがあっても、二人で感じたいろんな気持ちを決して忘れないように>
ここでオープニング曲が流され、メインタイトルが再び登場する…。いつものオープニングと違うのはスタッフロールの字幕が入っていない点だけだ。フルコーラスで流された最後のところで、「おわり」というクレジットが出ても全然おかしくない。そんな内容なのだが、Aパートが終わったこの時点では「つづく」という字幕が出るのだ。
結局、この作品「彼氏彼女の事情」は、宮沢雪野と有馬総一郎の二人が、本当の自分を生きることを決意して、自分自身が何者であるかを模索していくということがメインテーマであることには変わりないわけで、庵野監督はつまるところ、ギャグをふんだんに盛り込みながらも二人のそうした心の揺れを描きたかったのだろう。今回の脚本を担当したのが庵野監督ではないにしても、だ。極端なことを言うと、「カレカノ」の第1話から第4話までを描くことさえできれば、庵野監督が表現したかったことはすべて言い尽くせた、ということなのかもしれない。後のストーリーは付加された「おまけ」の部分と言ってしまってもいいかもしれない。このAパートを見ていて、そんなことを感じました。(→「コラム☆カレカノ」に関連記事があります)
ちなみに、歯をむき出しにして「くわ〜っ」と猫とタイマンを張り合い、ネコジャラシでからかわれるつばさが出てくるが、もはや、つばさは、ほとんど人間扱いの描写はされていないのだった…。ああ、つばさちゃん…。だがしか〜し。そんな芝姫つばさの切なくも哀しい心情が、Bパートの3番目のパートで強烈に吐露されるのであった〜。
Bパート:(1)「ATTENTION」タイトルが出た後にメインタイトル。で、サブタイトルは「これまでのおさらい/天ノ巻」。見栄王・雪野の成り立ちと正体暴露、有馬との出会い、彼氏彼女の関係になるまで、そして試練とラブラブモードの日々が、宮沢シスターズのナレーションと名場面アニメによって綴られる。音楽は、もちろんいつもの「鉄人28号」っす。ああ、またか…。何回も見たなあ、これ。
(2)引き続いて、またまた「ATTENTION」タイトルが出た後にメインタイトル。サブタイトルは「これまでのおさらい/地ノ巻」。成績悪化による学校呼び出し、井沢真秀の扇動によるクラス女子全員によるシカト、芝姫つばさによる嫌がらせ、事態収集、友達ゲットなどの事件の数々が、名場面アニメによって綴られる。音楽は「ウルトラマン」の挿入歌(地球防衛軍のテーマ)か。ナレーションは宮沢父?
(3)引き続いて、さらに「ATTENTION」タイトルが出た後にメインタイトル。そしてサブタイトルは「これまでのおさらい/人の巻」。音楽はロック調の「夢の中へ」。ナレーションはゆきのんずフレンズの皆さん。つばさ「有馬取られた〜」、真秀「端的なご説明、ありがとうございます」。そして…。つばさ「これから先、芝姫つばさがケモノから人に戻してもらえるのはいつか。本当にその日は来るのか。それとも私の役割は既に終わってしまったのか…。…。もしかして、まともにしゃべれるの、これが洒落じゃなくまじ最後かもしれないし。ごめんね、ただの愚痴よね、これって」。一同「いえ、心から心中お察しするわ」。あはは。笑えました。その通りだから。温泉談義、有馬評、雪野と有馬がイクところまでイッたかのうわさ話、十波の登場、文化祭の準備…などの雑談が続く。そして最後につばさが絶叫して終わるのだった。「あたしの出番が短い、あたしの出番、あたしの出番。せめて人間らしく。あたしの出番〜!」。ああ、つばさちゃん、痛々しいよねえ(爆笑)。椿が、ぼそっと「でもまあ、いいのよこれで」。まじだな、こいつら(核爆)。
ここで、ふと思ったのだが、そうか、芝姫つばさの声としゃべり方って歌手の「イルカ」にとてもよく似ている。「だれかに似ているんだよなあ」と、つばさ初登場の時から思っていたのだけど、これで納得した。そう感じたのは僕だけかなあ?
■エンディング:スタジオの床付近から天井を映しながら異動するカメラ映像。久しぶりに初期のころのエンディング映像スタイルです。雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。エンディングロールによると、Aパートの脚本は佐伯昭志さん(絵コンテ、演出も)。
■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:これまでに見たことのあるアニメーション映像を背景に、宮沢シスターズのナレーションで呼び込み。で、タイトルなんだけど、今回の放送が「今までと違うお話」で、次回が「これまでと違うお話」ですか。ああ、そうですか…。この次も総集編的なお話なんですか…。
【第25話】「これまでと違うお話」(1999年3月19日放送)オープニングは普通通り。監督は「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」の連名表記。
冒頭で川島先生役の清川元夢のナレーションによる「これまでのあらすじ」。1分20秒。いつものように雪野と有馬の「仮面優等生」脱皮までについて語られる。画面は、走る車から撮影した舗装道路だけの映像の逆回し。音楽は「ウルトラマン」シリーズの挿入歌(ウルトラ警備隊のテーマ)か?
今回は、雪野の2人の妹・月野(中3)と花野(中2)の物語。主役は花野。まずは花野の目から見た宮沢一家についての説明があって、続いて女の子同士の淡い恋愛感情が描かれる。
登校や下校の時に月野と花野の後をいつも付けている怪しい影がいる、と不安に感じる花野だったが、どうやらその人物は花野のことを好きらしい。相談しようにも忙しい姉たち二人は頼りにならず、一人で悩む花野。で、どうやらそれは隣のクラスの女の子・恵であることが分かった。ますます悩む花野。呼び出されて「対決」したところ、二人はお互いに「相手がいつも自分のことを見ていて、自分に恋愛感情を抱いている」と思い込んでいたことが分かる。二人とも自意識過剰だったわけだ。実は、一連の出来事は「いつも冷静で耳年増の花野をからかおう」と姉の月野が企んだいたずらだった。月野は、花野の友達の百合香に頼んで小細工までしていたのだ。恵が登場したことで意外な展開になったけど。ところが、百合香は前から月野が好きで、「お姉さんになってください」と告白するのだった…。
う〜む…。今回はあんまり面白くなかった。女の子との恋愛について花野が真剣に悩んでいるところは、そこそこ面白かったけど…。あえて感想を書くとすれば、恵がボーイッシュでかわいかったことと、宮沢一家がそろって食べる冷やしソウメンが、とてもおいしそうに見えたことくらいかなあ。女子中学生の顔の描き分けが今いちで、見ていて分かりにくい。
来週発売される「三姉妹ボーカルアルバム」のプロモーション番組みたいだ。
■エンディング:月野と花野の似顔イラストを背景に、新曲「風邪をひいた夜」(作詞・作曲・編曲:松浦有希、歌:渡辺由紀&山本麻里安)が流される。エンディングロールによると、今回の脚本は佐藤竜雄さん、絵コンテ・演出は中山勝一さん。ラストは筆描きイラスト。
■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:無人の録音スタジオの静止映像を背景に、宮沢シスターズのナレーションで呼び込み。
【第26話】「14 DAYS・6」(1999年3月26日放送)=最終回お見事っ! 僕としては文句なしの出来と評価したい最終回でした。叙情的かつ論理的かつ胸キュン的な描かれ方のアニメ版「カレカノ」最終回に、視聴者の一人としてガイナックスと庵野秀明監督に感謝の意を表したいと思います。そして、全26話をいろいろな形の表現で楽しませてくれて、ガイナックスとスタッフの皆さん、本当にありがとうございました。それにしても、アニメ版の「カレカノ」が終わってしまって、来週から金曜日が寂しくなるなあ。雑誌連載の原作漫画の方に楽しみの場を移行させて、心の補完(笑)に努めますか。
オープニングのテーマソングはなし。CMの後はいきなり本編スタートです。だがしか〜し、最終回のこの期に及んでも「これまでのあらすじ」をやるのだった(爆笑)。「宇宙戦艦ヤマト」のテーマソングに合わせて約1分20秒、モノクロの廊下や教室風景などのカット写真をフラッシュバックするように映し出す。芝姫つばさが一人でナレーション。まじな声といつもの「つばさボイス」の2本立て。つばさちゃん、これが最後のお仕事なのかあ…?
で、この後のストーリー&表現はすべて、ほとんど静止画像(止め絵)に近い映像を流しながら、登場人物の行動や心理状態、心象風景の大半を短い単語と字幕で描写していく。そんな手法が最後まで貫かれているのだ。短い単語による情景描写とは、例えば「やすらぎ」「均衡の破壊」「介入」「動揺」「閉塞の打破」…などといった調子で、佐倉椿役の千葉紗子と川島先生役の清川元夢がナレーションを務めていくのである。途中で部分的に普通の会話入りアニメーション・シーンもあるけれども、台詞も多くが字幕で表現されるのだ。
【Aパート】
第1場:文化祭の準備をしている雪野の前に、浅葉と十波が現れる。楽しそうに雪野たちと会話する十波を凝視する浅葉。
第2場:校内を歩いている十波の頭に、学校で一番大きな樹の上からリンゴが落ちてくる。樹の上に登っていた佐倉椿が落としたのだった。悪い悪いと笑って手を振る椿。登っていく十波。「オレはお前を嫌いって言ってんだよ」「嫌われたものは仕方ない。ま、好きに嫌えば。それに私、結構お前のこと好きだし」。オレのどんな声も感情も決して佐倉には届かないと、十波はやるせない気持ちになる。ところが樹の枝の上で眠る椿を見ていて、十波は思わずキスをする。「なぜ? 私キスなんか初めてした」「そう言えばオレもだ」…。十波は「何であんなことしたんだろう」と自分自身の突然の行動をいぶかるのだった。
第3場:十波は無邪気に雪野に接する。文化祭の準備に忙しい雪野を手伝おうとするのだが、雪野は「荷物を持ってもらっただけでいいよ。だって、他の男の子と仲良くしたら有馬、寂しがるもーん」と笑いながら答える。「有馬君はなぜこんな女と…」。なぜ有馬が雪野と付き合うのか、雪野のどこを気に入っているのかが、十波にはまるで理解できない。「それより椿への復讐はどうなっているの?」「あきらめてねえよ」「でもな〜、2年間片時も忘れずに相手にこだわり続ける気持ちってさー」。雪野には十波の椿に対する気持ちが分かっていた。そんな和やかな雰囲気を見た浅葉は、二人だけになった時に十波に忠告するのだった。「お前さ、宮沢に近付き過ぎだよ。有馬を追い詰める。軽い気持ちで余計なことをしない方がいい。有馬は本当は、自分以外のだれかが宮沢に近付くの嫌いだから」…。浅葉は知っているのだった。本当の有馬は気性が激しくて独占欲が強いことを。「有馬が掛け値なしに優しいのは宮沢にだけだよ」。しかし、有馬にとって雪野は特別の存在であることが、十波には全然理解できないのだった。「そんなご大層な女かよお。普通の女じゃん」…。
第4場:雪野を抱いても幸せにはなれない…。そんな自分に気付いた有馬は自問自答する。触れ合ってしまったからこそ、2人の距離がよく見えて2人は別々の個人だということが分かった。そして、自分は雪野なしではもうやっていけないこと、雪野はもう有馬なしでやっていけることを知ってしまった…。不安と孤独に次第に壊れていく有馬…。
第5場:またまた雪野と楽しそうにおしゃべりする十波。そんな十波が雪野と分かれて一人学校の廊下を歩いている時に見たのは、憎悪と敵意に満ちあふれて冷たく突き刺さるように自分に向けられた有馬の鋭いまなざしだった。ぼう然とする十波。一方、有馬は自問自答する。「もしかして、今まで自分だと信じてきたものは努力で作り上げただけの偽物だったんじゃないか。僕の中にはもう一人、本物がいるんじゃないのか」…。
【Bパート】
第6場:有馬は十波を徹底的に無視した。いつ出会っても自分と口をきこうともしない有馬に、十波は言いようのない焦り・戸惑い・不安・絶望を覚える。いじめられっ子だったかつての自分に優しくしてくれた一番の友達だったのだ。公平で優しい有馬と一緒のクラスにいる時には、いじめられることがなかった。「ごめんよ、そんなに宮沢が大事だって分からなかったんだ。でも、有馬君があんなに感情をむき出しにするなんて…」。だがそこで、十波はふと疑問に思う。じゃあ、有馬君の中には元々、そんな部分があったのか? 中学の時にオレが見ていた有馬君は見せかけだったのか? 「全員と平等に接するっていうのは、まるで全員同じようにしか見ていないみたいだ」…。十波は、開けてはいけない箱を開けかけてしまったのだろうかと悩む。「思う気持ちのすべては雪野に、反発や敵意は雪野と有馬を妨げるものすべてに向けられている。雪野にかかわる時にだけ感情を抑えられなくなる」。そんな有馬のことを十波は、心から知りたい、友達になりたいと思うのだった。
第7場:荷物を片付けに来た社会科資料室でやっと二人だけになれた雪野は、有馬にべったり甘える。「文化祭が終わったら思いっきりべたべたしようね〜」。しかし、暗闇の方へとひたすら向かう自分の気持ちに有馬は一人焦りを感じる。「君を独占したい。自由な君が本当に好きなのに、一方ですべてから奪いたい」。そんな気持ちを雪野には知られたくない…。
第8場:生徒指導室ではみんな芝居の準備に忙しい。言い出しっぺで脚本家の亜弥は、雑誌連載の筆が進まずナーバスになっている。「キャラクターと設定とエピソードとシャーペンと自分のテンションが、ぴたっとかみ合う一瞬が来ればすらすら書けるけど、それが来なければあがかなければならない…」「私が楽しんで書いていないものを、だれが読んで楽しいと思うのよっ〜」「あんまり書けないとどんどん不安になっていくんだ。もう私の書く力は尽きたのかなあって」。(あはは〜。この心理状態はよく分かるなあ。)天気がいいから河原でお昼を食べようと雪野はみんなを誘う。亜弥はすっかり気分転換ができる。真秀が尋ねる。「どうして急に芝居をやる気になったの?」「初めて勉強以外に面白いと思ったから。ほかに何か夢中になれるものがほしいと思った。有馬はちゃんと別の世界を持っていて、私は私の世界を持ちたいと思うじゃない。有馬に甘えるのは好きだけど、甘やかされて怠けてしまうのは嫌だ」。そうか、だから有馬は宮沢にだけ反応するのか…。真秀は「なるほどね」と一人納得する。
第9場:「有馬君を理解するにしても、そもそも恋愛感情ってもんが分からない」。そう考えながら廊下を歩いている十波は、椿と仲良くしゃべっている浅葉を見かける。なぜか椿に対して不愉快な気持ちを感じる十波。わざとけんかを売る十波は、さらに意味もなく椿の後を付いて歩き出す。そして疑問がわいてくる。「なぜ、オレは椿にキスなんかしたんだろう」。その時、階段でよろけた椿を十波は抱き抱える。「あれ、椿ってなんでこんなに軽いんだ? こいつの腕はこんなに細かったか?」。かつて、自分よりも圧倒的に強い存在だった椿が、とてもか弱い存在としてクローズアップされる。思わず椿を突き飛ばしてしまう十波。昔は二人の間には性別がなかった。だから、この感情に名前を付けることが出来なかったのだ。しかし、今ようやく十波は分かった。椿に何とも思われていなかったことで深く傷つき、椿に自分の存在を刻み付けたかったのは、そして、椿が他の人間といると不快に思うのは、椿のことを自分が好きだからなのだ…。十波はやっと自分のその「恋愛」という感情に気付いたのだった。
ここで明朝体で字幕「そして、彼と彼女の物語は」「つづく」…。エンディングテーマ曲が流れてから「完」のクレジット。ああ、終わってしまった。
ふう〜。しみじみ〜ほのぼの〜としてしまう終わり方でした。心の中にじ〜んと余韻が残るものがあります。個人的に大好きな佐倉椿がいっぱい出てきたのもよかったし、雪野と有馬の心理的関係を掘り下げて表現したのも評価できる。登場人物の心理描写や心象風景のスケッチなど、とっても中身が濃くて充実していた最終回でした。拍手〜。フルアニメーションだけがアニメーションの表現手段ではない。多様な実験を繰り返し視聴者に示してきたこの作品は、まさに「意欲作」の名前に恥じないものがあると思いました。
■エンディング:雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。流氷の海を船が突き進む。甲板から撮影した海面が映し出される。脚本・絵コンテのクレジットは「庵野秀明、安藤健」、監督クレジットは「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」。なぜか、今回の話の主役級でナレーションも担当していた「佐倉椿/千葉紗子」の名前が「声ノ出演」欄になかった。
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