「彼氏彼女の事情」

 ●作品解説/各話紹介&考察です

第19話~第23話
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サブタイトル(四字熟語)については「アイキャッチの事情」をどうぞ!


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【第19話】「14 DAYS・1」(1999年2月5日放送)

 オープニングのテーマソングは普通に放送される。オープニングの終わり近くに流されるスタッフロールの「監督」欄には、前回に続いて連名で「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」とある。今回も庵野秀明監督は片仮名表記でした。監督続投なんだね…。脚本は別の人だったけど。

 はじめに言っておくと、好きな作品に関して言うと僕はかなり「ストライクゾーン」(許容範囲)が広い。かなりの部分までオッケーである。そんなわけだから、今回の「カレカノ」は面白かったです。いろいろご意見はあると思われますが、僕としてはイケてました(^^)。ナイスです。非常に実験的な試みが炸裂。前回放送の最後に流された次回予告で「人物の絵や書き文字をくり抜いて台紙に張り付けた」映像が出てきたのは、こういうことだったんですね。

 まず、最初から意表を突く。「宇宙戦艦ヤマト」の挿入歌のメロディーをバックに流しながら、学年主任の川島先生(エヴァの冬月先生=清川元夢)と芝姫つばさが「これまでのあらすじ」を淡々と読み進めていくのである。しかも延々と3分近くも続いていくので、ありゃりゃ今回もまた総集編なのかなと思ってしまった(爆)。要するに川島先生とつばさの2人で、月野と花野の真似をしていたんだなあ(苦笑)。でもまあ、これはこれでいいかなと納得できます。このシーンでは、これまでのストーリーを象徴するかのような「象徴画像」(脱ぎ捨てられた靴、洗濯物、鉄棒、赤信号、夕日、金網、月、薄暗い学校の廊下、傘立て、鉄橋下、道路標識、工事中標識、自動改札、駅の電線、巨大クレーンのシルエット、だれもいない教室、夜景、理科室、線路の枕木、水道メーター、といった数々の背景画カット)を短い間隔で次々に映し出す。手法としてはこれまで通りだが、なぜかこれが「宇宙戦艦ヤマト」挿入歌の落ち着いたメロディーに妙にマッチしているのだった。ヤマトがイスカンダルに到着した時に流れてくるメロディーだっけ…。ああ、何だかとっても懐かしい気持ちになるなあ…。ガイナックス(庵野監督)としては「何もかも懐かしい…」ってことが言いたいのかな(謎)。これに続くコオロギの鳴き声シーンがこれもまた長くて30秒もあるのだけど、余韻を持たせて宮沢一家の朝となるのだ。

 で、ここからが今回放送の本領発揮である。「登場人物の絵」をくり抜いて、それをテレビ画面で走り回らせるという手法が、番組最後までずっと続くのだ。この人物イラストがとってもラフで、色鉛筆やサインペンで描いたような感じなのが笑える。さらに背景には実写映像を使ったりしている。夏休みを雪野が振り返るシーンでは、これまでに放送された映像を「テレビ画面として」映し出す。「デートに行って、チューして、有馬の家に行って、チューして、また有馬の家に行って…」という雪野のしゃべり口調がかわいい。さらに、雪野が有馬とのラブロマンスを語り終えたところで、真っ赤になって照れる雪野のイラストと、背景に使われている写真を一緒に燃やしてしまうということまでやってのける。ここで、今回のタイトルが表示される。この後は「AM8:15 通学路」というようなタイムテーブル表示に従って物語は進行していくのだが、次から次へと最後まで面白い演出が続いて笑わせてくれるので目が離せない。住宅地の遠景写真や、青空の写真の中に「校舎を描いたイラスト」をはめ込んでみたり、顔写真のコピー画像を動かしてみたり…。いやはや、なんとも(笑)。

 2学期が始まって、久しぶりに友達と再会した雪野と仲間たち。思いはもう2週間後に迫った文化祭。「女子バレー部と女子柔道部の合同でホストクラブをやるよ」と盛り上がっている佐倉椿に対して、雪野や真秀たち帰宅部の生徒は学校行事にあまり関心を示さない。それよりも委員会の仕事でまた多忙な日々を送ることになるだけだろうと、雪野と有馬は憂鬱になるだけだ。つばさはもう今回は完全に珍獣扱い(笑)。でもかわいいね~。転校生の十波建史が登場。瀬奈りかと椿の幼馴染みだが、椿は中学時代に十波を下僕扱いしていたのだった。

 文化祭の準備にまったくやる気のない学級委員の雪野だったが、利益&利用客数の総合1位になった団体には、教師側から「1)焼き肉券、2)秋遠足で好きな所へ行ける権、3)東大合格卒業生の在校中の全ノートのコピー」のうちのどれか一つがもらえると知って、雪野は俄然張り切る。そこに強敵が登場する。F組の「浅葉秀明ディナーショー」である…(爆死)。「フェロモン全開で待ってるぜ」と言い残して去る浅葉。そしてA組級長の雪野は文化祭実行委員会で、F組の級長で「浅葉秀明ディナーショー」の企画発起人・プロデューサーの深田航平と対決する。この男が実に不気味な描かれ方をされていて爆笑ものだ。顔の部分に顔写真のモノクロコピーを張り付けて、口だけがパクパク動く。画面ドアップの顔が怖い~。「A組なんかビリに決まっている」という彼の挑発的な発言に、雪野は「1番は私よ~!」と爆発するのだ。巨大な雪野と深田の顔が画面狭しと暴れ回るも、雪野のパンチで深田は撃沈。ヒグラシの鳴き声と夕日のビルを背景に、静止する深田と雪野のシルエット。これは、まさしくエヴァンゲリオン「使徒沈黙」のシーンである。ところで、この顔写真の人ってだれやねん。

 雪野の体をいたわる有馬。「大丈夫。私、うれしかったし。有馬は私に触る時いつもやさしい。大事に思われてるの分かるもん」と照れる雪野。「君さえ傍にいてくれれば僕は」と有馬は思うのだった。今回唯一のシリアスなシーンだ。有馬の深く悲しい心象風景の一端がちらりと、ほんの少しだけ描かれるのだった。さすがは庵野監督、ギャグシーンがオンパレードの中にあっても、そこのところは忘れていなかったようだ(と思う)。

 創作活動に勤しんでいた沢田亜弥は、脚本を書き上げる。帰宅部の3人(雪野、真秀、つばさ)を使った芝居を文化祭でやろうと言い出すのだった。「3人ともキャラがいいから考えやすかった。イケルと思うんだ」と自信満々なのだが…。つばさちゃ~ん(^^)(謎)。

 ■エンディング:雪野と有馬のデュエットで「夢の中へ」を流しながら、今回の放送で使われたと思われるセル画やイラスト類を燃やしてしまう(フィルム逆回し)…。これまた意表を突く演出だなあ。面白いというよりは「も、もったいない…!」という感想の方が強かったりするのですが。

 ■エンディングの「顔ノ出演/深田航平/高村和宏」って…。ガイナックスの原画担当者ではないか…。う~ん、今回は完全に遊びのノリなんですね。やるなあ~。今回の脚本は今石洋之さんでした。

 ■今回放送の「紙人形芝居」は、「劇メーション」と言うのだそうだ。で、エンディングのスタッフロールには「彩色・切り出し」「劇メーション技術監督」「劇メーター」という役職名が書かれていて、「劇メーター」の欄には「小倉陳利、庵野秀明、今石洋之」と表示されていました。何だか楽しそうでいいですね~。(この項、後で追加更新)

 ■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:次回放送予定のアニメ画像を背景に映し出しながら、宮沢シスターズがお知らせするパターン。次回タイトルの表記は太ゴシック活字。


【第20話】「14 DAYS・2 」(1999年2月12日放送)

 ※仮題は「14 DAYS・2 <少年T>」でした。

 オープニングのテーマソングは通常通り。オープニングの終わり近くに流されるスタッフロールの「監督」欄には、前回に続いて連名で「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」。このパターンがすっかり定着しましたね~。今回の主役は沖縄から転校してきた十波建史。中学1年まで学校の近くに住んでいて、3年ぶりに故郷に帰って来た十波の過去と現在が明らかになる。

 金持ちの家に生まれて何不自由なく育った十波には、ずっと友達がいなかった。ぶよぶよに太って、病弱で小学3年生で成人病(…って、おいおい)を患っていた十波は、典型的ないじめられっ子だった。からかわれることに慣れてしまい、「どうせ自分はダメなんだ」と受け入れることで、自分が傷つくことを避けようとしたのだ。そんな十波をいじめっ子の手から助けてくれたのが、柔道・空手・合気道・ボクシングに通じて学校中の男を震え上がらせていた佐倉椿だった。と思いきや、椿は十波を下僕のように使い回すのだった。なぜか椿に目をつけられた十波は、ことあるごとに椿の餌食にされるのである。下校途中に駄菓子屋で買い物した支払いを命じられたり、自転車に乗れない十波を無理やり二人乗りさせて坂道を真っ逆さまに走らされたり、宿題を押し付けられたり…。もっとも、椿は弱い者いじめは決してしなかったのだが。そんな状態が小5から中1まで続いたが、十波は沖縄に転校することになる。「これで屈辱的な生活から解放される」と大喜びの十波。しかし、十波は最後に一つだけ確かめておきたいことがあった。「何で佐倉は僕に構うんだ」「ああ、小学校の時に担任に頼まれたんだよ。面倒みてやってくれって」。椿がバックにいれば、そんなにいじめられないだろうという配慮から、椿なりに十波を構っていたのだった。それを聞いて十波はショックを受ける。頼まれただけ、なんとも思われていなかった、相手にとって自分が何の意味もない存在だったということに、大きなショックを受けたのである。こんなダメな僕では当たり前だ…。椿の言葉に十波は決意する。「変わってやる。今度会う時は絶対に僕を意識しないではいられないように」と。そして、3年後。ダンクシュートの練習に励む椿の前に現われた十波は、カッコよく一発でシュートを決めるのだった。

 十波が、背も高くて成績もよくてスポーツ万能の「モテル男」に大変身して帰ってきたのは、佐倉椿を見返してやりたいという強い思いがあったからだった。しかし、椿はそれが「あの十波」だということに気付かない。「野生動物」(笑)の芝姫つばさは気付いたようだが。夏休み明け実力テストで有馬や雪野と並んで1位を取った十波は、中学時代から「あこがれの人」だった有馬が同じ学校にいることを知って舞い上がる。何をやらせても完璧な有馬は、十波にとって特別の存在だったのだ。その有馬は、すっかり変身した自分のことをちゃんと覚えていた。あこがれの有馬君が僕を覚えてくれていた、と十波は感激するのだった。

 成績を巡る有馬と雪野の馬鹿馬鹿しくも楽しげな掛け合い。「は~い、有馬、あ~んして」と卵焼きを無理やり食べさせようと大騒ぎする雪野と浅葉。そんな場面を何度となく目のあたりにした十波は「馬鹿じゃねえの、お前ら」と絶句したりあっけに取られたりする。でも3年ぶりに会った有馬は、心から高校生活を楽しんでいるように見えた。伸び伸びした雰囲気に変わったそんな有馬の姿を見て、十波は少しうらやましい気持ちになるのだった。

 今回はごく普通の少女漫画アニメといった出来上がりでした。あっさりしていた。それなりに心理描写があったり登場人物の心象風景も描いてはいたけれど、有馬の場合だとどんより重くて深い悲しみがどこまでも漂っているし、つばさの場合もそれなりに家庭と家族の在り方を考えさせるような深みがあるのに対して、今回の十波にはそういう深刻さはほとんど感じられない。まあ、十波の場合は問題がさほど深刻ではないのだから、それも当然か。もちろん作品自体は面白かったことに変わりないのですが。それともあれかな、前回があまりにもシュールでインパクトが強かったから、今回がおとなしく感じられたのだろうか…。

 それにしても! たった3年で人間ってこんなにも変われるものなのだろうか。だって、中1までのぶよぶよに太って肉の塊のような十波と、すらりとスリムでクールな表情の十波が同一人物だとは、普通は信じられないぞ。深層心理に隠された椿への恋心(?)だけで、十波は自分を磨きに磨いたのかな。有馬はよく一目で分かったよなあ。う~む、さすがだ。

 ■エンディング:雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。映像は今回の名場面アニメ。

 ■エンディングロールで、脚本に庵野秀明監督が復活していました。

 ■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:次回放送予定のアニメ画像を背景に映し出しながら、宮沢シスターズがお知らせする。次回タイトルの表記は太ゴシック活字。最近は次回予告もこのパターンがすっかり定着しました。


【第21話】「14 DAYS・3 」(1999年2月19日放送)

 ※仮題は「14 DAYS・3 <交わる糸>」でした。

 オープニングのテーマソングは通常通りの放送です。オープニングで流されるスタッフロールの「監督」欄は、前回に続いて連名で「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」。

 十波建史は雪野に「佐倉椿たちには、同じ中学の十波だって言わないでほしいんだ」と頼む。「文化祭で芝居をやろうよ」としつこく迫る沢田亜弥から、「絶対に嫌だ」と学校中を逃げ回る雪野と真秀の2人。ついに追い詰められて説得が始まるのだが、雪野は「人前で演技するなんて私らのスタイルじゃないもん」と断固拒否する。しかし、亜弥は「それはおかしいわね。超美麗優等生を演じてきた仮面少女が人前で演技できないとは…。あなたは演技なしで生きていけないのよ」と食い下がる。一方、芝姫はあっさり「あたしは別に構わないよ」。大量のお菓子を買い与えられるという「幼稚園児並み」の買収工作によって陥落したのだ。(ちなみに今回のつばさちゃんは、とてもまともに描かれている。しかもかわいい~。)「やっぱりだめかあ。生でビジュアルで見たかったな」と、ついにあきらめる亜弥。「演らなくていいなら台本を読みたい~」と雪野たちはストーリーに興味を示す。舞台は未来の地球。亜弥の作品は、大量生産されたアンドロイドが人間と普通に暮らしている世界を描いたSFだった。

 バスケット部に入った十波と張り合うバレー部の椿。何かにつけちょっかいを出してくる十波に、椿は次第にその存在を意識させられていく。まさか、あの十波建史…? いや、絶対にそんなことはありえない、と椿は心の中で強く否定するのだが、そう思えば思うほど心の中に十波の占める面積が大きく広がっていくのだった。それこそが十波の作戦だったのだ。「意識しろ。意識して、どうしても無視できなくなった時にお前を裏切ってやる」

 雪野と有馬、浅葉に、十波はこれまでの努力の日々を語る。「今度帰って来る時には別人になろう、まったく違う人間になって来ようって、そして佐倉に復讐してやろうって…。辛かったぜ、トレーニングの日々。早朝マラソン、マシントレーニング、水泳、食事制限、学力アップ、ルックス革命…。昔の俺を捨て去るために血を吐くような努力をしてきたんだあ~っ」。それはまさに雪野と一緒だった。他人とは思えない友情を感じる雪野である。「素晴らしい。あなたも二流の素材を努力で磨き上げて、一流にしている人間なのね」。そして2人の努力自慢が始まるのだが、有馬は一人寂しそうな表情を見せる。疎外感を感じたのだ。「ほかの人と仲良くしたの嫌だった? のけ者みたいにした?」。そんな有馬の頭を「よしよし」と雪野は母親のように抱きしめる。「有馬が一番大好きよ」。たったそれだけで落ち着いた気持ちになる有馬は「離れられないのは僕の方だ」としみじみ思う。…雪野の方がずっと大人じゃん。

 アンドロイドと人間の世界を描いた亜弥の脚本を、夢に見る雪野。ストーリーが印象深く心に刻まれた証拠である。「演ったら面白そう」と思ってしまう雪野だった…。

 面白いけど、う~ん、面白いんだけど、なんかちょっとインパクトが弱いのだなあ。水準の高い作品に仕上がっていることは間違いないんだけどなあ。

 …それはさておき、前回と今回あたりから、佐倉椿の描かれ方がとってもかわいらしくなってきた気がする。第12話「仕合わせの在処(ありか)」でつばさのことを真剣に心配する椿は、本当にいい奴だなあと思わせるに十分の描写ではあったのだが、そんな友達思いの面だけではなく、外見や内面描写の部分でも実に女性っぽさが感じられるのである。それに、とても深みのある描かれ方がされているのだ。例えば、いじめられっ子だった十波の面影が、断片的に椿の心によみがえってくる場面だ。カッコよく男らしく変身してスマートに振る舞う目の前の十波と、かつて自分の言いなりだったいじめられっ子の姿とのギャップに戸惑う椿の表情には、切ない思いを感じさせるのである。椿の胸に、昔の十波の姿形が登場してくることが次第に増えていく。変身した十波への単なる関心なのか。それとも懐かしさなのか。2人の空白の時間を埋めようという気持ちなのか。そんな妙に切なさを感じさせる椿の心理描写や表情が、いっぱい描かれているのが、実は今回の放送の特徴だと思うのである。

 ■エンディング:雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。映像はセピア色の校舎と校庭。最後にカラー映像に変わる。エンディングロールの脚本欄に庵野秀明監督の名前あり。

 ■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:次回放送予定のアニメ画像を背景に映し出しながら、宮沢シスターズがお知らせしています。


【第22話】「14 DAYS・4 」(1999年2月26日放送)

 ※仮題は「14 DAYS・4 <はじまり>」でした。

 オープニングのテーマソングは通常通り。オープニングで流されるスタッフロールの「監督」欄は、前回に続いて「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」の連名。

 「考えたんだけどぉ~、やっぱお芝居やってみようかなぁ~って思って」と雪野が沢田亜弥に話しかける。が~んとショックを受ける真秀は走ってその場を逃げる。だがしか~し。いったん決断した雪野から、逃げられるわけがなかったのだった。「私、与えられた課題をこなすことはできるけど、自分で何かを生み出すってできなかったからうれしくって。ね、真秀さんもやろうよ」「や・ら・な・い」。すると雪野のパンチが真秀の鳩尾に食い込む。「んだよ~。私がやろうって言ったらやれよ。クラス動かして私を無視したくせにさっ」。真秀の過去の弱点を持ち出して脅したり、わざとらしくすねて見せる手法を使って、雪野は真秀を強引に芝居に引っ張り出すのだった。しかしよく考えたら、これって結構、陰湿で執念深い行動だよなあ。とっくの昔に水に流して親友になったのにね。まあ、そこはうまいことギャグを使って逃げているわけなのだった。雪野は急きょ、有志による芝居上演希望を持ち出すが、「演劇って舞台を長時間占拠するわけでしょう?」と生徒会の反応は芳ばしくない。こうなると余計に燃えるのが雪野である。「交渉関係は私の専門分野だから任せて」と俄然やる気を出す。そんな雪野に有馬は、先生を味方につけるといいよと助言する。

 そんな折に有馬は「浅葉秀明ディナーショーの内部情報を一部入手した」と言って、雪野に見せる。バラの花の背景に黒マント、黒いシルクハット姿姿で登場する浅葉。ミッチー、宝塚、ジュリーといった舞台構成に続いて、キャラクター商品の数々が紹介される。ノート、下敷き、缶ペンケース、テレカ、携帯ストラップ、時計、ボールペン、ラミカード、ポスター、ハンカチ、マスコット、鍵付き日記帳、6分の1フィギュア、書き下ろし絵本、同人誌、あさぴんオフィシャルガイド、あさぴんカレンダー、あさぴん詩画集、あさぴん詩集…。っておいおい、そんなもん本当に出せるのかよ、高校生が文化祭で(笑)。

 「インターハイで優勝したんだって。やっぱり有馬君はすごいなあ。今度練習見に行っていい?」。廊下を歩いている有馬に親しそうに声をかける十波。それに対して「見るほどのものじゃないよ」と答えて有馬はそっけなく立ち去ってしまう。機嫌が悪かったのかなと戸惑う十波。有馬はいまだに、この間、雪野と十波が楽しそうに笑って話していた時に感じた疎外感を引きずっていたのだった。だれもいない階段で一人たたずんで1点を見つめる有馬。工場地帯のシルエットを背景に、同じポーズの有馬が小さく立っている。パイルの杭打ち音と交通渋滞の喧騒音が重なる。そんな描写に、有馬の寂しくも屈折した心象風景が象徴される。

 学年主任の川島先生に、亜弥の脚本を持ち込む雪野たち。川島先生は「沢田にはこんな才能があったんだねえ」と驚く。「これを文化祭でやりたいと言うんだね。こういうものこそ文化祭にふさわしい。私からも推薦しておこう。臨時の部活扱いとして顧問の先生についてもらうのが一番だろう」。自分が顧問を引き受けてもいいと一生懸命にアピールする川島先生。もちろん、雪野たちに異存のあるはずがない。実は川島先生は演劇サークルの顧問をやりたかったのだ。な~るほど。本当は雪野のことがお気に入りなんだね、川島先生。何だかんだ言って、先生は「できる生徒」の世話を焼きたがっているのだった。

 雪野と芝姫が芝居をやるといううわさは、たちまちのうちに学校中に広がって評判になる。宮沢家でも大騒ぎだ。娘の舞台姿を勝手に想像して父は妄想を抱くし、花野は大ファンの「沢井綾希」(沢田亜弥のペンネーム)がお姉ちゃんの友達であると知って大興奮状態に陥るといった具合だ。花野は「台本見せて~」。父親は「あした秋葉原行ってビデオ買おう」。

 大渋滞の道路風景と、鳴り響くクラクションの音。廊下で雪野と十波がばったり鉢合せする。「ちゃんと芝居できるのか?」とからかう十波。「そういうあなたは、椿への復讐はどうするのよ」と切り返す雪野。もしも有馬に恋愛感情を抱いていなければ、私も今ごろは計略を巡らせていたに違いないと考える雪野。しつこい性格に2人はお互いに親近感を感じ合う。楽しそうに笑い合うそんな2人を有馬はまたもやばったり目撃してしまい、声もかけずに一人立ち去る。階段の途中で立ち止まり1点を凝視する有馬。渋滞中の車のクラクションが次第に大きくなって鳴り響く。道路標識や消火栓、電柱などの風景カット。有馬の心理描写である。

 場面は変わって放課後の教室。雪野たち女子グループは、芝居の裏方配置や準備スタッフの相談に余念がない。そこに浅葉が登場する。デッサンと美術に自信のある浅葉は「俺が大道具やってやるよ」と声をかける。「本当は女の子グループに混ざりたかっただけなんでしょ~」などとからかいながら、和気あいあいと楽しそうに話す雪野たち。そんな光景を見かけて再び凍り付く有馬。杭打ち音。はるか遠くに雪野たちの笑い声と話し声が小さく聞こえる。だんだんと小さくなっていく有馬の姿。じっと雪野たちを見つめてしばらくしてから、ようやく雪野に声をかける。話の輪に入って「いいなあ、僕もそういうの手伝ってみたい」。それに対して「有馬は知恵を貸してくれるだけで十分助けられているよ」と雪野は答える。ごく自然に普通に冗談も飛ばす有馬だったが、しかし浅葉だけはふと、一見ポーカーフェースに見える有馬の凍り付いたような横顔に異変を感じ取るのだった。校舎屋上の隅っこで一人ぽつんと本を手にして座っている有馬。浅葉が傍らに近付いて行く。「大丈夫か」と一言だけ声をかける。有馬の手から読んでいた本がこぼれ落ちる。浅葉の背中にもたれかかって有馬は遠くを見つめる。いつもは冗談ばかり飛ばして、かわいい女の子のことしか考えていない浅葉だったが、有馬の孤独な心情をただ一人察して支えてくれるのは浅葉だけだった…。

 文化祭を間近に控えて、どこか浮き浮きした気分と熱気に満ちている学校の雰囲気を、ギャグを基調として楽しく描写しているのだが、だからこそ、そんな中で有馬の孤独が際立っている。女子グループや浅葉、十波らとは馬鹿な話をしたり、冗談を言い合ったり、ふざけ合ったりする雪野なのに、有馬に対してはそういう接し方をしてくれないのが有馬の心には引っかかるのだった。例えばそれは「有馬は知恵を貸してくれるだけで十分助けられているよ」という雪野の表現に象徴されている。雪野は別に深く考えてこう言ったわけではないだろう。完全無欠で優秀な有馬から寄せられる助言に、たぶん心から感謝して答えたに過ぎない。雪野が無意識のうちに取っている言動の一つなのだ。しかし、有馬は自分の置かれたそんな存在に孤独を感じてしまうのだった。寂しい。疎外感。心の空白。神棚に祭ってあるような存在なのか。さらっと描いているだけに、かえって効果的な見せ方のような気がする。

 ■オープニングの後に「彼氏彼女の事情 3姉妹ボーカルアルバム/雪月花」の発売予告CMが初めて流される。宮沢3姉妹役を演じる声優3人が実写で、3人揃っての制服姿、それぞれの表情アップ、3人揃って白いパジャマ(?)姿でけだるくじゃれ合う、という3つのパターンで登場しました。3月26日発売。初回特典は「3姉妹フォトブック」だそうです。

 ■エンディング:雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。映像は今回放送の名場面集アニメーション。エンディングロールの脚本欄に庵野秀明監督の名前あり。

 ■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:次回放送予定のアニメ静止画像を背景に映し出しながら、いつものように宮沢シスターズがナレーションを担当しています。


【第23話】「14 DAYS・5 」(1999年3月5日放送)

 ※仮題は「14 DAYS・5 <放課後>」でした。

 オープニングのテーマソングは通常通り。オープニングで流されるスタッフロールの「監督」欄は、前回に続いて「佐藤裕紀、アンノヒデアキ」の連名。

 久しぶりに「PLAY BACK/これまでのあらすじ」が登場だ~。宮沢シスターズが「これまでのあらすじ!」と叫んだ後は、これまでのような姉妹2人のナレーションは入らずに、鉄人28号のテーマソングに乗せて名場面集とその台詞のみが流される。で、アニメの一番最初からまた復習するのかと思ったら、さすがに今回は、雪野が文化祭で芝居をやる決意をしたところから始まりました。約1分間。そりゃあ、そうだ。いくら何でもこの期におよんで、番組スタート時に戻って一から復習したりはしないだろうね~(苦笑)。

 会議や打ち合わせに忙しい雪野。今回は芝居もやるわけで。ところが、雪野たちは文化祭直前に飛び入り参加を決めたため、どの教室も満杯で、雪野たちが芝居の準備に使える空き教室が見つからない。すると、学年主任の川島先生が声を掛けてくれた。「じゃあ、生徒指導室を使いなさい。どうせしばらく用はないから」。う~む、権力の力は偉大だなあ(笑)。本番までの準備を淀みなく調整して、スケジュールのアウトラインを整える雪野。さすがに事務処理能力が高い。おだてて、なだめすかして、政治家のような調整能力も発揮するのだった。ふと見ると、沢田亜弥がたばこに火を付けようとしていて雪野は激怒する。「言い出しっぺが自分でぶち壊すのか~。文化祭当日はみんなで仲良く自宅謹慎か~!」。そこへ川島先生が「ゆずもなか」を持って登場する。「話は進んでいるかな~。さっき呼んだのはお菓子をあげようと思ったんだよ」とニッコリ。なんてお茶目な川島先生。すっかり雪野フリークになってしまっている。当初登場した川島先生なら、当然のことながら即座に「両親呼び出しの上で停学処分」だよなあ。ああ、あの厳しくて威厳にあふれた川島先生のお姿は何処に…。

 文化祭までに残された時間は少ない。夜遅くまで打ち合わせして、あすは午後から買い出しだ。格技場の灯がまだついているのに気付いて、雪野はみんなと分かれて有馬を見ていくために一人残る。「あさぴんはどうする?」「いや、その状況で俺がいると、総一郎君すごく怖い気がするから一人で行って」。あはは…。要するに有馬はやきもちを焼くことで落ち込むのですな。浅葉はその辺のところを、きっちり見抜いているんですね。

 有馬の剣道姿を初めて見る雪野は、真剣に力いっぱい竹刀を振り回す有馬の勇姿に大コーフンする。雪野が見にきてくれてうれしい有馬。「カッコイイ~」と思わず抱きつく雪野だったが、「くっさ~い、離れてよ、触らないでよ」と豹変する雪野を竹刀で突つく有馬の掛け合いは、もうすっかり漫才コンビである。雪野の運転で自転車に2人乗りするシーンでは、雪野が「初号機、行きま~す」と叫んで、エヴァンゲリオン・ワールドが展開するのだった。雪野のたぶんいい臭いのする髪の毛。自転車の後ろに座った有馬は、雪野の背中に顔をくっつけて幸せな気持ちに浸る。イメージ映像。人気のない夜の交差点の信号機。青信号が赤に、赤信号は青にと変化する様子がゆっくり時間をかけて映し出される。このイメージ映像は、有馬の心の交差点、切り替えを象徴する心象風景だろう。穏やかな高層ビルの夜景が有馬の落ち着いた心情を表しているかのようだ。

 Bパートでは、佐倉椿と十波建史の確執が展開される。とは言っても十波は結局、椿にいいようにあしらわれるのだが…。椿が一人残って練習する体育館で、ちょっかいを出す十波。バレーのボールを打ち合いながら、椿は問う。「お前さあ、なんで私にそう絡むわけ?」「嫌いだから。理由なんかねえよ」。…しばし沈黙。しかし、椿は「嫌い嫌いは好きのうち、嫌いは相手への執着、ラブに最も近い感情、まさかお前、私に?」と飄々と切り返して、さらりと受け流してしまうのだった。椿を傷つけようとして放った十波の言葉は、何の意味もなしていなかった。むしろ、十波の方が逆に完璧にコケにされてしまったとしか言いようがない。しかも十波の本心・深層心理を、ずばり言い当てられてしまっているではないか(笑)。残念ながら、椿の方が役者が数段上だよなあ。

 買い出しに出かける雪野たちだが、しかし、いつの間にかついつい話は脱線する。浅葉のファッションショーが始まり、ついでにつばさちゃんの着せ替えなんかもオプションでくっついていたりして。芝居の上演時間の打ち合わせをしながらも、カラオケ大会になだれ込んだりするのだ。疲れて帰宅してからも雪野は、妹2人を相手に台詞を覚えるために台本の読み合わせをする。「へとへとだけど心地いい。勉強でバテるのとは全然違う。有馬も部活の後はこうなのかなあ」。そんなことを思いながら、雪野は満足そうに眠りにつくのだった。

 なかなか充実した内容でした。話としてはまとまっていたし、ギャグとシリアスのバランスもよかったと思います~。で、今週のピカイチは何と言ってもお茶目な川島先生。同点2位は相変わらずカッコイイ椿と、泣きながらカラオケを歌わされる真秀さんの2人でありまする。

 ■エンディング:雪野&有馬デュエット版の「夢の中へ」。映像は今回放送の名場面集アニメーション。エンディングロールの脚本欄に庵野秀明監督の名前。

 ■「PRE-VIEW/これからのあらすじ」:冒頭の「こからのあらすじっ!」という宮沢シスターズの呼び込みさえなく、音楽とテロップだけである。これは初めてのパターンですね。映像はたぶんガイナックスの社内で、セルの作画とチェックに余念のないスタッフの様子が早送りで流される。早送りだと余計にせわしない感じが強調されるよなあ。

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